子供のころ、大相撲千秋楽の大一番といえば北の湖(きたのうみ)と輪島(わじま)の横綱対決だった。あんこ型の安定感のある、ふてぶてしい表情の北の湖に、斜に構えてみえる、苦み走った表情の輪島。「強すぎる」北の湖を今ひとつ好きになれず、輪島を応援していた。
現役理事長のまま、九州場所中に急逝した北の湖を伝える記事で、当時は「中学1年で上京したたたき上げ=北の湖」「日大相撲部出身のエリート=輪島」という図式でとらえられていたと知ってびっくりした。子供心に、北の湖こそ相撲取りになるべくしてなったエリートと思えていたからだ。いつの世もエリートはあんまり人気がない。北の湖も強すぎて、たたき上げなのに敬遠されていた。
憎まれるほど強かった、強くあり続けたからこそ、北の湖の強さへの思いは突出していたのだろう。この九州場所10日目に横綱白鵬が栃煌山(とちおうざん)戦で猫だましを使ったときには「横綱としてやるべきことじゃない」と苦言を呈した。急逝3日前に発したこの言葉は、理事長としてだけではなく、本心から出たに違いない。