当然のことながら、わざと音程を外せば事足りてしまうほど、役作りは単純なものではなかった。「最初に直面した課題は、マルグリットの声域が高過ぎるので、結果的に、本格的なコロラトゥーラ(声楽で装飾に富んだ華やかな旋律)の技術、つまり、非常に高音で歌う技術が必要となったことです。その高音を出そうと、私は声帯にかなり負荷をかけ続けたので、グザヴィエは特定の歌のシーンでは私の声を吹き替えるのが最善だと考えました。そんなことから、私はリップシンク(口パク)の技術も身に付けなければなりませんでした。こうした作業を続けることで、私は少しずつ内側からマルグリットになっていくことができました」。フロは現地の報道陣に役作りの舞台裏を説明した。
マルグリットが放つ歌への情熱をまったく理解できず、うんざり気味のジョルジュは、妻の友達と浮気に走る。町で2人のデート現場を目撃してしまったマルグリットは一層孤独を深めていく。「マルグリットにとって音楽は心の隙間を埋める手段でもあります。ジョルジュは周囲にマルグリットが怪物でもあるかのように吹聴します。愛人に対しては『なぜ妻はあんなにどなる必要があるんだ?』と尋ねます。妻を恥じていることすら認めているのです。しかし、マルグリットの行動はすべて夫のためです。マルグリットは夫に自分を見てもらいたいし、夫の目に映りたいのです」