記者会見で質問に答える日銀の黒田総裁=19日午後、日銀本店【拡大】
安倍晋三首相が消費税再増税の延期を表明したことで景気の腰折れ懸念が後退し、日銀の「2年で2%」の物価目標には追い風との見方が広がる。ただ、日銀内では、財政再建を先送りした政府への不満も一部でくすぶる。蜜月関係だった政府と日銀の間に“すきま風”が吹く恐れがある。
■はしご外しだ
「(再増税延期は)政府・国会が議論し、決定されること」
19日、日銀の黒田東彦総裁は金融政策決定会合後の記者会見で淡々と語った。
ただ、黒田総裁は今月中旬、国会に参考人として呼ばれた際、「追加緩和は再増税が前提だった」と説明している。黒田総裁が再増税にこだわったのは、日銀と政府が平成25年1月に結んだアコード(共同声明)があったからだ。
声明で日銀は物価目標の早期達成を、政府は財政健全化の推進をそれぞれ約束した。ある日銀幹部は消費税再増税の先送りに「約束違反。(首相)官邸にはしごを外された」と憤る。
日銀は10月末、追加の金融緩和で長期国債の購入量を年50兆円から、国の新規発行額を大きく上回る80兆円に増やした。今後、政府の財政健全化が滞れば、中央銀行が政府の赤字を補填(ほてん)する「財政ファイナンス」とみなされ、将来的に金利が急騰(価格は急落)するリスクが高まる。
JPモルガン・アセット・マネジメントの重見吉徳氏は「日銀は予想外の追加緩和で市場の背後を突いたが、その直後に安倍首相に背後を突かれた。黒田総裁は誰とも顔を合わせたくない心境だろう」と分析する。
■物価目標には有利
一方、再増税の延期で実質賃金の減少が先送りとなり、企業や家計のマインドが改善すれば、2%の物価目標の達成が近づく可能性もある。
農林中金総合研究所の南武志氏は「今後、うまく賃上げできれば、再増税(29年4月)直前の28年度末にも2%に到達する可能性が出てくる」と予想する。
黒田総裁は会見で「半年ごとの展望リポートで、必要に応じて経済成長率と物価の見通しを修正する」と述べるに留めた。だが、日銀の一部の幹部からも「再増税の延期は、足元の景気にはプラス材料」との“本音”も飛び出す。