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人工透析16年 演出家・中村龍史さん「病気ごときで人生捨てたくない」
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「限界を作るのも破るのも自分」と話す演出家の中村龍史さん=東京都港区(野村成次撮影)
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マッスルミュージカルなどを生みだした演出家、中村龍史さんは25歳のとき、遺伝性の難病、多発性嚢胞腎(のうほうじん)と診断された。引き締まった体に鋭い眼光、精悍(せいかん)な体つきからは想像もつかないが、腎機能が低下し、人工透析を開始して既に16年。「病気ごときで自分の人生を捨てたくない」。残った四臓六腑をフル回転させながら強い使命感で演劇界に新風を吹き込み続ける。(文 村島有紀)
腎移植をしない限り、人工透析は一生続きます。だから先のことは考えない。朝起きたときに思うのは「今日一日を大事に生きよう」。健常者だっていつ事故に遭うか分からないし、明日は誰でも不確実。条件は同じですよ。
母は私が10歳のときに腎臓病で亡くなり、父は僕が23歳の頃に人工透析を始め、その5、6年後に亡くなりました。姉も30代で透析を始め、昨年、亡くなった。叔母も伯父も腎臓が悪かった。「これはおかしい」と思って調べてみたら多発性嚢胞腎という遺伝性の腎臓病だったんです。
《多発性嚢胞腎は両方の腎臓に蜂の巣のような無数の嚢胞(液体の袋)ができ、大きくなる。30、40代までは無症状が多いが、やがて腎不全になる》
25歳で診断を受けた後は毎年、腎機能を調べました。通常は血清クレアチニンの数値は1・2以下ですが、20代後半で1・7になり、少しずつ上がっていった。10になったら即、透析です。
僕の場合、平成9年に8を超え、主治医が「そろそろですね」と。演出、振り付けの仕事とは別に舞台にも出演していたので、どうしたら体を動かせるか、仕事ができるかを考え、週3回の通院が必要な血液透析より、毎日13時間かかるが、自宅でできる腹膜透析を選び、おなかにカテーテルを入れる手術を受けました。
《腹膜を利用して血液をきれいにする腹膜透析は、就寝中などに器械を使って自動的に行う方法と、日中に数回透析液バッグを交換する方法がある》
マッスルミュージカルの依頼を受けたのは透析を始めた後です。振り付けしていたら、いつの間にかおなかからチューブが出てくることもあった。でも、周囲には知られたくなかった。みんなの目が変わると仕事がやりにくくなると思い、「大変ですね」などと言われるのも嫌でした。
僕は健常者と同じようにやっていける。こんな病気ごときで自分の夢を断念したくないし、人生を捨てたくない。日本の演劇、ミュージカル、舞台は悲惨な状況です。だから、もうちょっと爪でひっかいて穴を開け、ひっくり返さないと気が済まない。
20年には元マッスルミュージカルの主要メンバーと「中村JAPANドラマティックカンパニー」を結成し、22年から30代女性を中心にしたユニット「CHANCE」のプロデュースなども始めました。今の日本には大人向けのエンターテインメントがないですからね。自分がやらなければ誰がやるんだ、という状況。悲しんでいる人も笑顔になるような舞台のため、「俺は命を懸けているんだ、ばかやろう」という気持ちです。
「透析に入ったら、もう終わり」みたいに悲壮感を漂わせる人がいるけど、透析を一日のメーンイベントにしてはいけない。顔を洗うのと同じで、生活に必要なことだと思えばいい。今は血液透析に変えたけど、通院時間がもったいないから、1年前からは在宅で血液透析をしています。機器の操作を覚えるため、3カ月通院してトレーニングを受けました。透析時間は週5回、各3時間半です。ただ、透析中もパソコンを開いて仕事をしていますよ。集中力が落ちたらDVDを見る。ギターも弾きます。病気と闘っても仕方がないけど、工夫はできます。努力し過ぎて死んだ人はいないのだから、工夫することで自分が成長します。
病気とどう向き合うかというのは、人生をどう生きるかという問題です。人それぞれに人生のターニングポイントがありますが、僕の場合、中学2年でジャック・レモンの映画「グレートレース」を見たときです。ゲラゲラ笑って心の底から楽しんだ。役者ってスゴイな、と。振り付けでは、躍動感を出すためにステップを徹底的に鍛える。人の体は、ある程度までは誰でも動くんです。できないのは甘やかし。自分で自分の可能性に限界を作らず、限界を超えた自分を楽しもうよ。限界をつくるのも破るのも自分自身。そうじゃないと寂しいでしょ?
なかむら・りょうじ 昭和26年、東京都生まれ。演出家。劇団四季研究所を経て、役者デビュー。30歳からは演出家、振付師として活動を開始し、東京パフォーマンスドール、マッスルミュージカル、国体の開会式などを手掛ける。笑いを演出するエンターテインメント作家と呼ばれる。11月1~3日には、東京・赤坂の「赤坂CHANCEシアター」で、文化庁芸術祭参加作品「おかしいな二人」を演出、出演する。