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「理念」追求よりも結果 拙速を自戒

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「理念」追求よりも結果 拙速を自戒

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 【安倍政権考】

 「理念」と「現実」のはざまで、政権運営に飽き足りない歯がゆさをいつも、胸中に抱いているのではあるまいか。集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈の変更をめぐる、このところの安倍晋三首相(59)の心象風景をそう察する。内閣支持率が高位安定しているとはいえ、「理念」を引っさげて強引に突き進めば、いたずらに与党の反発を買う。そうかといって、「理念」を降ろすわけにもいかず、その旗は掲げ続ける。そのさじ加減は並大抵のことではない。

 憲法解釈変更は「来秋」

 首相は当初、解釈変更について、自身の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇、座長・柳井俊二元駐米大使)が提出する報告書を受け取った後、年内にも踏み切るシナリオを描いていた。ところが、安保法制懇の報告書提出は年明け以降の雲行きとなり、軌道修正を余儀なくされた。

 行使容認は、首相の悲願といってよい。それは、先の米国訪問でも、解釈変更により地域や世界の平和と安定に積極貢献する「積極的平和主義」の理念を打ち出したことに強く表れている。中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル問題など、日本の安全保障環境は厳しさを増しているのだから、なおのことだ。

 首相に近い政府関係者は、解釈変更とそれに伴う関連法案の処理について、こんな考えを口にする。「来年秋の臨時国会でできればいい」。

 巷間(こうかん)伝えられているのは、「来春以降」という見立てで、2014年度予算を成立させた後にも、本格着手するとかのようにみられていた。

 首相周辺が来年秋の臨時国会を視野に入れたスケジュール感を持っているとすれば、意見集約なり法案作成なりで随分と丁寧な運びができることになる。

 こうした見通しがささやかれるのは、連立相手の公明党が慎重姿勢を崩していないという事情があるからなのは明らかで、解釈変更にアレルギーの強い有力支援組織の創価学会婦人部では、「勉強会をする段取りもない」(関係者)そうだ。

 自民党内の一部にも、解釈変更は、米国に向かう弾道ミサイルの撃破など第1次安倍政権時に安保法制懇がまとめた4類型など限定的であるべきだ、とする意見も根強い。

 「時間」を担保

 そんなこんなの情勢に配慮した結果とはいえ、最大の理由は、長期政権を見据え、拙速を自戒してのことだろう。さばきを誤れば、元も子もなくなってしまう。15年の党総裁選で再選されれば、16年の参院選まで国政選挙はない。

 自民党の首相に近い勢力には、長期政権をより確実にするため、衆参ダブル選挙を実施し、安定した政権基盤を構築する案もささやかれている。

 「思想家ではない政治家に求められるのは、理念や理想をあくまで追求することではなく、現実の世界で結果を出すことだ。そういう大きな判断を政治家はしていかなくてはいけない」

 この発言は、00年5月15日付の産経新聞に掲載された首相の語録である。当時はまだ官邸入りをしておらず、この直後に発足した第2次森政権で、官房副長官に就任し、政界の階段を上り始めた。首相はまさに今、こうした政治信念を実践すべき政治環境にある。

 つまるところ、衆参両院の選挙で大勝した与党の議席数であり、これまでのところ順風満帆な政権運営とそれに伴う高い内閣支持率であり、よって露骨に首相の足を引っ張る反「安倍」勢力が不在という党内事情である。

 そして、これらの要因はいずれも、首相にじっくり腰を据えて政治課題に向き合える「時間」を担保している。(松本浩史/SANKEI EXPRESS

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