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【伊豆大島】島外避難始まる 「迷惑かけられぬ」 ふるさとを後に

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【伊豆大島】島外避難始まる 「迷惑かけられぬ」 ふるさとを後に

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 台風26号による土石流被害を受けた伊豆大島(東京都大島町)で10月23日、台風27号の接近を前に、避難に支援が必要な高齢者らの島外避難が始まった。チャーター船で港区の竹芝桟橋に到着後、渋谷区の宿泊施設や親戚宅などに身を寄せた。寝たきりの男性(67)は自衛隊のヘリコプターで渋谷区の都立広尾病院に搬送された。島外への集団避難は1986年の三原山噴火時の全島避難以来となる。一方、新たに女性1人の遺体が見つかり、死者は30人に上った。このうち25人の身元が判明。安否不明者は15人となった。

 家で過ごしたいが…

 強風が吹き荒れる島北部の岡田港。避難のため高速船を待つ高齢者の中に、泉津(せんづ)地区に住む島津利秋さん(80)の姿があった。

 40年前に旅行で訪れた島を気に入り、退職後に移住した島津さん。「ここがふるさと。家で過ごしたいのはやまやまだけど、周りに迷惑をかけるわけにはいかないからな」。寂しそうにつぶやいた。

 島津さんは目が不自由なため、自宅以外では移動も難しい。10月19日の大雨で避難勧告が出た際には、島内にある長女の奈恵(なえ)さん(50)の勤務先に身を寄せたが、転倒して左手にけがを負った。今も白い包帯が巻かれたままになっている。

 妻の孝子さん(79)は島内の施設に残る。奈恵さんも「他人に世話を押しつけるようで葛藤したけど、お世話になることにした」との思いを抱く。

 「これしかなかった」

 島南部の差木地(さしきじ)地区に住む男性(62)と妻(62)も島外に避難するかどうか迷い続けた。男性はてんかんの持病を抱えている。22日にケースワーカーから意向を尋ねられた際は自宅に残ろうと思ったという。だが、避難勧告が出た19日の大雨と強風が頭をよぎり、避難へと心が傾いた。

 男性は「台風で都心から医師派遣もなくなっている状況では避難するしかない」と話す。妻も「台風で道路が分断された際に発作が起きたらと考えると、これしか選択はなかった」と決断の理由を語った。

 島を離れるのは高齢者だけではない。岡田地区に住む無職の岡野美智子さん(75)の孫で中学3年、桧山(ひやま)風花さん(15)と妹の中学1年、汐音(しおね)さん(12)は祖母の付添人として島を離れた。

 足が不自由なため、車いすで生活する岡野さんの世話のため、風花さんと汐音さんは1週間ほど学校を休む。「お父さんに『しっかりサポートしてこい』といわれた」と話す風花さん。「東京に行くと、人混みで体の調子が悪くなるけど、おばあちゃんを助けてあげたい」と島外避難への同行を決めた。

 仲間を置いて行けない

 一方で島に残り、土砂にまみれた被災集落で、安否不明者の捜索や復旧作業を続ける人たちもいる。「仲間が捜索活動をしているのに自分だけ避難するわけにはいかない」。大島町消防団元町分団の市村松之(まつゆき)さん(38)は、当然のように語った。

 大島町消防団元町分団には自身が被災者となりながら、捜索活動に参加する団員が多い。市村さんも自宅や経営する民宿が土砂まみれになり、住めなくなった。さらに台風27号の接近が予想されるため、妻子と母は(10月)17日に島外へ自主避難した。土石流では、おじが行方不明となり、近所の知り合いも亡くなった。妻からは「できれば一緒に避難してほしい」と言われたが、島内に1人残って捜索活動に加わる道を選んだ。

 「家族が島内に残ったら逆に心配。1人の方が少しは気が楽になる」

 自宅の片付けもままならず、寝泊まりしている町役場の避難所や分団の施設と被災地域を往復する日々が続く。「家族に会えないのはさびしいが、同じ境遇の団員もいる」と自らを励ます。被災していない団員たちも、仕事より捜索活動を優先しているという。

 避難勧告や新たな土砂災害も懸念される台風27号の接近まで残された時間は少ない。急ピッチで手つかずの土地を捜索するが、無残な姿となった地元を見て今後のことが頭をかすめる。

 「1年後の大島がどうなっているのか、想像がつかない」

 ≪特別警報、気象庁が直接連絡へ≫

 気象庁は10月23日、特別警報が発表されにくい島嶼(とうしょ)部で記録的な大雨が降った場合、市町村の幹部に直接電話して「特別警報級の現象が起こる可能性がある」などと連絡し、危機的な状況を伝える方針を明らかにした。台風26号による伊豆大島(東京都大島町)の土石流被害で危機感が伝わらなかったことを教訓にした。

 台風27号の影響で大雨が予想される太平洋側の市町村を中心として事前に説明する準備を進めており、24日中に態勢を整える。気象庁によると、以前から担当者レベルで連絡していたが、新たに気象台の課長以上の幹部が、市町村の部長や課長らに連絡することを想定。早めに情報を伝え、対応を促す。

 大島町によると、台風27号で土砂災害警戒情報が発表された場合も、都のほか、気象庁からも直接連絡が入る態勢を取った。土石流発生前日の(10月)15日夕、情報が約6時間放置され、町は避難勧告や指示を出さなかった。(SANKEI EXPRESS

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