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科学
低用量ピルと血栓症 大和田潔
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低用量ピルのヤーズ(ドロスピレノンとエチニルエストラジオール=EE=合剤)による静脈血栓症の報道がありました。他のピル、たとえばマーベロン28はデソゲストレルとEEの合剤、アンジュ28はレボノルゲストレルとEEの合剤です。混ざっている薬剤をそれぞれ見てみると分かる通り、EEが共通です。それぞれの低用量ピルは、卵胞ホルモンであるEEと異なる黄体ホルモンの組み合わせです。
黄体ホルモンの量が一定のものを1相性、3段階に変化するものを3相性低用量ピルと呼びます。EEは、単独でもプロセキソールという薬剤として用いられています。女性ホルモンは、男性ホルモンの働きを抑える作用があります。そこで、男性ホルモン依存の前立腺がんの治療に用いられます。
いざというときに血液は、固まって血管の穴をふさごうとする性質を持っています。同時に、血液内には不要な血液の固まりを解かす仕組みも持っています。血管内で血液が固まらないのは、この「固まる」「解かす」のバランスが上手にコントロールされている結果です。女性ホルモンは、血液、血小板、血管のそれぞれに働き、血管内に血液の固まりである「血栓」を作りやすくする性質を持っています。血栓は、流れの滞りやすい静脈にできやすい傾向があります。
エコノミー症候群としても知られている静脈血栓症は、もともと女性に多い病気です。震災後の避難生活によるエコノミー症候群が、女性に多かったことを記憶されている方も多いでしょう。低用量ピルは、女性ホルモンを有しているためさらに血栓を作りやすくすると考えられています。ただ、妊娠や分娩(ぶんべん)後の静脈血栓症の発症頻度に比べると、低用量ピルによる発症頻度はかなり低いものです。
静脈血栓のリスクが高い基礎疾患を持つ方や、閃輝暗点(せんきあんてん)がある片頭痛の方は内服を避けるべきだとされています。低用量ピルは、子宮内膜症などの治療に不可欠な薬剤です。飲み始めに静脈血栓はできやすい性質を持ちます。内服を続けている方が休薬してしまうと、飲み始めのリスクを再度経験することになります。不安な場合は、お医者さんとよく相談することにしましょう。(秋葉原駅クリニック院長 大和田潔/SANKEI EXPRESS)