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新日鉄住金労連など大手労組が春闘要求書提出 中小企業にも賃金アップの兆し

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新日鉄住金労連など大手労組が春闘要求書提出 中小企業にも賃金アップの兆し

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 連合傘下の基幹労連に加盟する鉄鋼、造船の大手労働組合が2月7日、2014年春闘の要求書を経営側に提出し、賃上げ交渉をめぐる労使の駆け引きが始まった。鉄鋼最大手の新日鉄住金や三菱重工業の労組は月3500円の賃金改善を求めた。各社の労組は、製造現場の生産性向上などへの貢献をアピールし、経営側からベースアップ(ベア)を含む賃上げ回答を引き出したい考えだ。

 新日鉄住金労働組合連合会の大森唯行会長は、東京都千代田区の本社で進藤孝生(こうせい)副社長に賃金改善の要求書を提出、「生産性の向上に不可欠な職場活力の維持に着目し、今後の活力発揮につながる賃金改善へ財源投入を求める」と述べた。JFEスチールや神戸製鋼所の労組も7日に要望書を出した。

 基幹労連加盟の大手労組の春闘は隔年で実施されており、新日鉄住金は12年10月の統合後、初の交渉になる。鉄鋼業界は国内需要は好調だが、世界的な需給ギャップなどの構造課題も抱えており、厳しい交渉が見込まれる。

 大手自動車メーカーは12日、主要電機メーカーは13日までに労組が要求書を提出し、大手企業の回答が集中する3月12日に向け、労使の攻防が本格化する。

 ≪中小企業にも賃金アップの兆し≫

 大企業の労使の春闘交渉で賃上げの機運が高まる中、2008年のリーマン・ショック以降、業績が伸び悩んでいた中小企業にも、安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」の効果で賃上げの兆しが出てきた。政府が目指す「景気の好循環」のカギは、企業全体の99.7%を占める中小企業の賃上げが握っている。

 「働く意欲を」

 東京都大田区で金属加工業を営むダイヤ精機は、1月から入社5~6年目の若手社員から賃金水準を一律に引き上げるベアを始めた。諏訪貴子社長は「これまでリーマン・ショック以降に入社した若手社員に賃上げできなかった。少しでもモチベーション(働く意欲)を上げてもらいたいと思い、決断した」という。

 大手自動車・部品メーカーを顧客に持つダイヤ精機は、リーマン・ショック以降、売上高が6~8割落ち込む厳しい時期もあった。景気が安定していたリーマン前の3年間に設備投資を行わず、利益をためていたため、苦しい時期に従業員の給与をカットせずに済んだ。「ここ数年は、とても賃上げできる状況にはなかった」(諏訪社長)。

 昨年あたりから、アベノミクスによる円安効果で大手メーカーからの仕事が増えてきた。まだリーマン前の水準に戻っていないが、「少しでも社員に還元し、上向いてきた景気に貢献したかった」(諏訪社長)。ダイヤ精機では、仕事の数が今のペースで半年続いた段階で中堅以上の社員も賃上げする方針だ。

 賃上げに前向きな会社はほかにもある。佐賀県の中堅工務店の社長は「従業員の士気を高めるため実現したい」と話す。ある情報通信業幹部も「人材確保のため賃上げを前向きに検討したい」と語る。

 トヨタ自動車や日立製作所など日本を代表する大手企業は業績が回復し、今期は過去最高益となる見通しで今春闘は賃上げムードが高まっているとはいえ、多くの中小企業の経営はまだまだ厳しい。

 無理してでも…

 大田工業連合会の舟久保利明会長は「最新設備のない10人以下の町工場は会社を維持するのに精いっぱい。政府には設備投資減税よりも、小さな会社にも仕事が行き渡る仕組みをぜひ考えてほしい」と訴える。お好み焼きチェーンを展開する千房(大阪市浪速区)も、アベノミクス効果で売り上げは回復してきたが、中井政嗣社長は「従業員の給与を上げてやりたいが、ベアは難しい。もう少し回復していかないと難しい」と、賃上げに慎重な姿勢を示す。

 ただ、ダイヤ精機のように、中小企業にも景況感を良くしたいとの思いから少し無理してでも賃上げする企業が現れている。もう少し景気が回復すれば、賃上げを検討したいという経営者の声は多い。ベアに踏み切れるのは一部だが、中小の賃上げマインドも着実に変わってきている。

 中小で芽生えた賃上げの動きを広げ、景気の好循環を作り出すためには、政府の取り組みにより、企業全体の86.5%を占める20人以下の小規模事業者にまで仕事が行き渡り、従業員の給与が上げられる環境をつくれるかが、これから問われる。(黄金崎元(こがねざき・げん)/SANKEI EXPRESS (動画))

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