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【逍遥の児】時代を目撃した写真家の軌跡

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【逍遥の児】時代を目撃した写真家の軌跡

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 「写真界の芥川賞」といわれる木村伊兵衛写真賞-。第1回受賞者、北井一夫さん(69)に取材を申し込んだ。電話で。快諾を得た。冬の午後。住所を頼りに自宅を訪れた。路地に入り込む。番地がとんでいるようだ。なかなか見つからない。約束の時間が迫ってくる。やむを得ず、再び、電話。

 --すいません。お宅にたどりつけないんですが…

 「わかりました。迎えに行きましょう。近くにお寺があるでしょう。そこで待っていてください」

 穏やかな声。救われた。境内で待つこと3分。北井さんがにこやかに現れた。森をまわって2階建てのお宅に到着した。居間。熱いお茶をごちそうになる。話をうかがった。

 旧満州で生まれた。戦後、家族とともに引き揚げてきた。少年時代は谷中(やなか)や深川(ふかがわ)で暮らす。日本大学芸術学部に進学するが、中退。1960年代後半。日大全共闘が築いたバリケードのなかに入り込んだ。

 「闘う学生たちの日常性、生活を撮りたかった」

 70年代、空港反対闘争最前線、成田市三里塚(さんりづか)に向かう。農民たちに密着した。1枚の鮮烈な写真がある。団結小屋。砦(とりで)のようだ。ヘルメットをかぶった少年たちがまっすぐ前を向いて屹立(きつりつ)している。祖父母や両親とともに闘った少年行動隊だ。

 「うーん。あの少年たち。いま、どうしているかなあ」

 遠い目をして回想する。三里塚をテーマにした写真で日本写真協会新人賞を受賞した。28歳だった。

 行動する写真家はさらなる被写体を求めて旅をする。東北の農村。沖縄。大阪の新世界。ひなびた湯治場(とうじば)。中国。そして東日本大震災の被災地…。写真家として半世紀を生きた。

 「現場に立って時代を目撃してきた。写真は時代を写す。生活を写します。写真やったおかげで、普通の人の5倍も6倍も、人生を体験できた」

 最後にお願いした。写真を撮らせてください。北井さんは「いいですよ」といった。愛用のライカM5を持ち、街頭に立った。わたしはカメラのシャッターを押した。そっと。(塩塚保/SANKEI EXPRESS (動画))

 ■逍遥 気ままにあちこち歩き回ること。

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