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第3世代ガム 「再結晶化」で歯修復 江崎グリコ「POs-Ca(ポスカ)」

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第3世代ガム 「再結晶化」で歯修復 江崎グリコ「POs-Ca(ポスカ)」

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開発担当の田中智子さん(中央)。研究スタッフの3分の1を女性が占め、「リケジョ(理系女子)が頑張っています」と話す=2014年2月7日、大阪市西淀川区の江崎グリコ健康科学研究所(提供写真)  チューインガム市場ですっかりおなじみになった「歯を丈夫で健康に保つ」ガム。なかでも江崎グリコの「POs-Ca(ポスカ)」は、この種のガムで初めて歯の“再結晶化”を促すことを実証した特定保健用食品(特保)だ。虫歯になり始めた状態でもろくなった歯の表面の結晶構造を、元通りに硬く戻す働き(再結晶化効果)がある。機能を強化した商品も加わり、さらに進化を遂げている。

 「歯の表面で起こる結晶の変化を何とかして解明できないか…」

 江崎グリコ健康科学研究所の田中智子さん(36)は考えた。「POs-Ca」の開発担当になった2004年のことだ。

 歯の表面のエナメル質は、虫歯菌が作り出す“酸”によって主成分のミネラル(カルシウムやリン)が溶け始めると、規則正しく並んだ結晶構造が徐々に壊れていく「初期虫歯」になる。通常は唾液中のミネラル分が穴埋めする形で修復(再石灰化)されるが、追いつかないと虫歯はさらに進んで歯に穴が開き、治療が必要になる。

 「POs-Ca」には、カルシウムを唾液に溶けやすい形にした、ジャガイモのデンプンから生成した「リン酸化オリゴ糖カルシウム」を配合。唾液と一緒になると、カルシウムを増やすことで、カルシウムとリンのバランスがエナメル質の成分比に近くなり、効率よく歯の表面に届いて修復できる。

 しかし、「再石灰化の働きは歯の表面のミネラル濃度が上昇することで簡単に確認できても、本来のエナメル質と同様の高い硬度を持った緻密な結晶構造まで取り戻す『再結晶化』が起きているかは測定できない」。マイクロ(100万分の1)メートル単位という極めて微細な結晶の量と質の変化を解析するには電子顕微鏡でも対応できなかったからだ。

 業界初「SPring-8」活用

 そこで田中さんが目をつけたのは、特殊な光を当てて原子レベルで物質の構造を調べる大型放射光施設「SPring-8」(兵庫県佐用町)。「これまで測定できなかったものが測定できるはず」と考え、歯の結晶を再生する働きを解明するのに使わせてもらうことにした。学術利用や、電子産業などハイテク技術分野の利用が中心だった「SPring-8」を食品業界の研究開発に生かす最初の試みとなった。

 実験は07年から3年間に及んだ。田中さんら研究陣は、初期虫歯を発症させたエナメル質の断片を人工的に作り、リン酸化オリゴ糖カルシウムによる再石灰化の前後で表面の結晶構造がどう変化するかを丹念に調べ上げた。光の当て方や断片サンプルの微調整といった気の遠くなるような細かい手作業。「何度も施設に泊まり込み、交代で3日3晩、サンプル測定などに追われたこともあった」

 その結果、初期虫歯のエナメル質にリン酸化オリゴ糖カルシウムを補うと、失われた結晶が健康な歯と同じ構造に再生することが確認された。研究成果に基づき、従来の再石灰化に加えて“再結晶化”という新しい効果の表示も認められた特定保健用食品として、11年3月に「POs-Ca」が発売された。

 研究陣は、もう1つの課題にも並行して取り組んでいた。「より硬くて丈夫な結晶構造にするにはどうすればいいか」というテーマだ。

 真っ先に思いついたのは「フッ素」だった。唾液中のミネラルには含まれていない成分だが、これを補えば再石灰化を促すことなどが知られていた。フッ素配合の歯磨き粉は1990年代から急速に普及しているほか、虫歯予防を目的とした歯へのフッ素塗布やフッ素入りの水で口をすすぐ予防法なども実施されている。

 緑茶成分のフッ素配合

 ところが、このフッ素には難点があった。フッ素は反応性が非常に高いため、カルシウムと反応して沈殿してしまうことから、両方を効果的に歯の表面にすみやかに浸透させることは難しいとされていた。

 研究陣は、緑茶に含まれている天然成分中のフッ素を使い、リン酸化オリゴ糖カルシウムとともにガムに配合することにした。すると「カルシウムとフッ素の沈殿形成を起こさず、どちらのミネラルも唾液に溶けて歯の表面まで効率よく届く」という特性が新たに判明した。そこで、カルシウムとフッ素を両方含んだ日本初のガム「POs-Ca F(ポスカ・エフ)」として商品化し、12年10月から歯科医院を通じて販売を始めた。

 江崎グリコ健康科学研究所の栗木隆所長(56)は「虫歯菌に酸を作らせない代替甘味料を使ったシュガーレスの虫歯予防ガムを第1世代とすれば、カルシウムなどを補給して歯を再石灰化するのは第2世代。『POs-Ca』や『POs-Ca F』のように再結晶化の機能も併せ持ったものは最も新しい“第3世代”に位置づけられる」と説明する。

 「POs-Ca」は3月に日本歯科医師会の推薦商品として認定され、パッケージのリニューアルも実施する予定だ。(SANKEI EXPRESS

 ■江崎グリコ健康科学研究所 基礎研究部門の拠点として2007年に設立。09年には社内の生物化学研究所と統合して体制を強化。現在、約40人の研究スタッフを擁する。三大栄養素(糖質、タンパク質、脂質)についての研究を中心に、食品の味や人体の生理機能に大きく影響する糖質の研究や、酵素技術を用いた新素材開発に注力。所在地は大阪市西淀川区。

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