天童荒太さん(以下天童) では一方の、ハナ(通所施設「地域作業所_hana(ハナ)」)で実際に利用者さんがされているお仕事を教えてください。
筒井啓介さん(以下筒井) うちは就労継続支援B型事業所(※6)です。毎日、地域の障害がある方が通われて、何かしらのお仕事をして、お給料…工賃をもらう。それを続けて、チャンスがあれば一般企業へ就労する。そういうトータル支援をしています。
天童 新聞バッグをハナ独自の企画で作られていたそうですね。
筒井 もともと内職仕事をしていたんですが、月どれだけがんばっても数千円にしかならない。自分たちで価格が決められるオリジナル商品…いわゆる授産製品をきちんと作ろうと思って始めたのが、新聞バッグでした。
でも、当時、モノを作っても売り先がない。営業かけられるだけの人員もないし。そんなとき、青山さんと出会って、バッグをアースデイ東京(※7)で売らせてもらえるチャンスがあったんですね。それが一番最初のお仕事。枚数も1000枚という当時からすればすごい量。
いいもの作っても、売れなければたまっていくだけ。本人たちもわかっているし、こっちも焦るし。仕事の割り振りもですけど、現金化するのも大変なんだと思っていたところでしたから、1000枚って大変だけれど絶対に作ろうと。
それが、「ここまでできるなら」とバッジのピン付けや、台紙作りといった次の仕事につながっていった。しかもびっくりするぐらい単価がよくて。今までは1個1円とかだったのに、55円。
それに、やり方をいろいろ考えてくれる。もともとは台紙も印刷された紙だったんですけど、いろんな人ができた方がいいということで、新聞を切って、ラミネートかけて、穴あけて、と工程を分かれるように考えてくれて。
ハンデでなく特性
天童 ハンデのある方は、複雑な作業をやる難しさがあるのでは。
筒井 そうですね。でもそういう複雑な仕事をどういうふうにやってもらうかを考えるのが僕らの仕事ですから。
青山 筒井さんのところはそれだけじゃなく、ダメなものを発見さえしてくれる。僕らの中では検査機関。「ハナ、厳しいよね」みたいな(笑)。
筒井 クオリティーが悪いものを利用者さん自身が気づくことがあるんです。ほんの少しだけ欠けていたり。よくぞ気づいた!と思う。すごいですね。
天童 ハンデとされているけれど、細かいことに気づくとか、単純作業の繰り返しを丁寧にやってくれたりとか、秀でた特性を持っていらっしゃる。
筒井 その通りですね。欠けていようと、やっただけお金をもらえればいいのかもしれません。でも、青山さんと仕事をしていて思うのは、一緒にこのブランドに関わる一員でありたいということ。売れれば売れただけ、仕事がくる。仕事がくれば、継続的にやってもらえる。エンドユーザーに喜んでもらえる仕事をしようと、みんなに言っています。
仕事をするのはお金のためだけれど、人からほめられたりとか、喜んでもらったりとか、達成感とか、やりがいがないと続かない。障害があるからってそれがなくていいとは思わないんです。そういう意味でも、かっこいいものを作るというのは大事。障害がある人が作ったというのを前面に押しているわけではないのに、一流のところで売られて、お客さまに買ってもらえる。掲載された新聞や雑誌は必ず買ってみんなに見せます。
天童 ビジネス感覚を持たないと上がれないステージがあって、そこがまたより広い世界への扉となっている。
青山 僕らも単純にボランタリーだけでやっているつもりはまるでない。だから普通にダメ出しする。デザイン製品なのに、ズレは許されない。ブランドに関わりますし。
天童 もし、モノが悪くなったらハナでも切っちゃう?
青山 ずっとダメなモノを出すんだったら、そうしますね。
筒井 僕らも、その危機感を持ってやっています。自分がお金を払ってまで買わないような仕事の仕方はしてほしくない。見ていないすきに適当にやる人もいたりはするけれど、全部やり直してもらう。社会人として、お金をもらう以上はプロとしての仕事をしてほしい。(構成文:塩塚夢/撮影:宮崎裕士/SANKEI EXPRESS)
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(※6)就労継続支援事業所 一般企業への就職が困難な障害者に就労機会を提供し、その知識と能力の向上に必要な訓練などの福祉サービスを提供する施設。2種類あり、「A型」は雇用契約を結び、原則として最低賃金を保障。「B型」は契約を結ばず、利用者が比較的自由に働ける。
(※7)アースデイ東京 毎年東京で開催される日本最大級の環境フェスティバル。今年は4月19、20日に代々木公園などで開催される。