青山雄二さん(以下天童) 最大の問題は、デザイン雑貨というパイが決まっていること。いくら大ヒット商品を売ってもしれている。
3年ぐらい前に、東京デザイナーズウィーク(※9)のオフィシャルバッグを1万枚受注したんですが、その時のケースを持って来たい。1万枚作るとハナ(通所施設「地域作業所_hana(ハナ)」、以下ハナ)のキャパをオーバーする。そこでハナが取った手段は、ハナを拠点にして他の作業所に仕事を外注することでした。そのスキームをもっと拡大したい。それが最低賃金を保証するとかにつながるのかな。
でも、今起こっているような、寿命の短い製品を大量に出すということに至ってはいけない。できれば、世の中全体が廃材を素材として見て、それを生かせるのがNPだよね、というのがスタンダードになれば。NP(「NEWSED PROJECT」(ニューズドプロジェクト、以下NP))だったら製品になるから、無条件に持って行こうと。社会インフラになるというと大げさだけど、それぐらいの感覚でやらないと。
筒井啓介さん(以下筒井) バッグのオファーもらったとき、うちのキャパは半分の5000枚しかなくて。残りは11カ所ぐらいの作業所に委託しました。やれない施設もたくさんあるなかで、やれる施設を見つけて。とはいえクオリティーは落とせないので、全ての施設に職員を派遣して、相手の職員に伝えた。サンプルを作ってもらって、ダメ出しして。OKだったら何百枚と発注した。とても大変だったんだけれど、それはしっかりした仕様書がなかったから。クライアントが全ての施設に足を運んでどうこうというのは不可能ですから、仕様書なりをきちんと作って、僕らが主として他の施設との間を調整する。そういうスキームを作れば、最低賃金の達成はありうる。
天童荒太(以下天童) わくわくする未来図ですね。話は変わりますが、地域とのつながりについてはどう思われてますか。
筒井 障害がある人は、そうそう簡単に引っ越せない。現時点でそこにいる地域で暮らさざるを得ない。そういう人が働きたいってなったとき、当たり前に働ける環境を作りたい。みなさんの税金をいただいて運営している以上、そういう場所を作っていかなければならない。自分の好きなものを買ったり、遊園地に行ったり。そういう僕らが当たり前にしていることが、当たり前ではないので。マンガ一冊買うかどうか迷っているとか聞くと、切なくなっちゃう。ほんとにささやかなことなんですよ。人間として当たり前の欲求を自分の働いたお金で満たす。それは地域でしかできない。
同い年なのに本に!!
天童 ちょっと個人的なことをうかがいますが、青山さんはバックパッカーをしていたとか。
青山 リュック1つで日本と世界を回ってましたね。新卒で入った自動車ディーラーがブラック企業だった(笑)。休みはない、ノルマはきつい。1年ちょっとでつらすぎてやめたんですが、当時、パソコンのデスクトップをきれいな海の写真にしていたんですね。ちょっと病んでいたんだと思うんですけど、そこに行こう!って決めて。退職した2日後に石垣島に行って、1年住んで。その後、インドや東南アジアを回っていました。
天童 筒井さんの目に、青山さんって人物はどう映ってますか。
筒井 僕、安定志向なんですよ。普通に大学行って大企業に就職して…みたいな。だからバックパッカーなんて想像もつかない。お話をしていても、海外のこととかちらちらあって。根本にあるんだなって思います。
天童 逆に、青山さんから見て筒井さんは。
青山 僕が筒井さんを知ったのは、実は社会起業家のススメみたいな本(※10)が最初だったんです。当時、28か29。同い年なのに、本に載ってる。やられた感がすごかった(笑)。大学のときから単身木更津に行って、NPO支援して。この人すげえなって。施設を立ち上げるときも、自分でかなりの額を借金して、リスクを背負っていらっしゃる。僕らはマンションを買うかどうかで迷っているところに、作業所を作るためにそれだけの金額を捻出している。そういう気持ちで仕事をしてる人だから、覚悟を決めてお願いしないといけないなと思いましたね。
「いい気持ち」広げよう
天童 お二人とも、ベタな言い方だけれど人が好きなのかな。廃材をくれる人だったり、利用者だったり、その家族だったり。善なる思いを引き出して、回転させている。善意を環流させている。
青山 ありますね、それは。どの現場も行ったら楽しい。廃材をくれる人にもいろいろな思いがある。捨てたくないとか、NEWSEDの商品に自分たちの素材をのせたいとか。しょっちゅう電話くれたりとか、業者さんを紹介してくれたりとか。
天童 多くの人が、もうけではなくて、いい気持ちを広げようとしてくれている。
筒井 大量生産、大量消費のものを作っているんじゃない。みんなの思いがあって、つながってできている商品。それで僕たちはお金を稼いでいるということを、ハナのみんなにはちゃんと伝えている。自分は役に立たないとか、生きててもしょうがないとか思っている人が多い。そうじゃなくて、あなたがこれをやってくれることで、これだけの人が喜び、つながることができたんだよ、と。
天童 それは障害のあるなしではない。われわれ自身が、そういうことで生きがいを感じる存在ですからね。
筒井 働くってお金だけじゃない。働きがいを大切にしたい。仕事もなんでもいいわけじゃなくて、思いがちゃんとある人としたいと思っています。(取材・文:塩塚夢/撮影:瀧誠四郎/SANKEI EXPRESS)
【キーワード】
■(※9)東京デザイナーズウィーク 毎年秋に東京・青山を中心に開催される国際的クリエーティブイベント。期間中は延べ80万人を動員する。
■(10)社会起業家の本 今一生著『社会起業家に学べ!』のこと。筒井さんをはじめ21団体の取り組みを紹介。アスキー新書820円。