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STAP細胞が予感させる治療法 大和田潔
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理化学研究所が作製した新型の万能細胞「STAP(スタップ)細胞」の塊(理化学研究所提供) STAP細胞(刺激惹起性多能性獲得細胞)の発見は再現性が議論となり、手順の詳細が公開される予定になっています。遺伝子操作などをしなくとも細胞に刺激を与えることで細胞分化が停止し、多能性を獲得するという視点から研究が進められました。外界の刺激に応じて細胞内の遺伝子が影響を受け、分化が解除されるという視点は興味深い発想です。
ハーバード大学の共同研究チームは、若いマウスの細胞だけでなく、いったん人為的に脊髄を損傷させたサルを、STAP細胞を用いて治療する研究を始めているとも発表されました。理化学研究所(理研)は、米国のチームとともにSTAP細胞の作製方法に関する国際特許を出願していることも報道されています。
私は、細胞を培養して毎日観察していたことがあります。若い細胞は、小さな細胞で、ぎっしりと美しく規則正しく配列します。その細胞の一部を新しい培地に移し、次代の細胞として継代(けいだい)して育て続けていると、だんだん幅の広い細胞になり、分裂しなくなります。細胞の機能も失われ、はがれ落ちて寿命が尽きていきます。若返る細胞はいません。顕微鏡をのぞいては、「何かを失いながら有限の時間、細胞が生命の灯をともしている」ことを実感していました。
外界からの特殊な刺激で、さまざまな臓器に分化できる多能性細胞が生まれるかもしれないという発想は、生命維持からは合目的であるようにも思えます。体の組織は、いろいろな種類の細胞からできています。体に損傷が起きた時に、それが刺激となって多能性細胞が一過性に出現。再び必要なさまざまな細胞に分化して臓器を再生修復していく…。そういった未知の生命活動の可能性も想像させてくれました。
実際、白血病阻止因子(Leukemia Inhibitory Factor、LIF)のような因子の刺激が、細胞膜を介して内部の遺伝子発現に影響を与えて細胞の分化を抑え、幹細胞の多能性の維持を支えているメカニズムが明らかにされています。生物は常に外界と応答を続けて、生命を維持する存在です。適切な刺激を与えることで細胞に多能性を与え、臓器の再生に役立てるという新しい治療法が開発されるかもしれません。(秋葉原駅クリニック院長 大和田潔/SANKEI EXPRESS)