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葛西選手が教えてくれた「チーム力」 萩原智子
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スキージャンプ男子団体で銅メダルに輝き喜ぶ(左から)清水礼留飛(れるひ)、竹内択(たく)、伊東大貴、葛西紀明の各選手=2014年2月17日、ロシア・ソチ(大里直也撮影)
雪と氷の祭典、ソチ冬季五輪が閉幕した。日本は、自国開催の長野五輪の10個に迫る8個のメダルを獲得。若手からベテランまで幅広い年齢の選手がメダルを獲得したことも、大きな価値があった。
「五輪と聞いて、何を連想しますか」。私はいろいろなところで、こんな質問をしてきた。大多数からの答えは「メダル!」。世間では、それだけ「五輪=メダル」の印象が強いのだ。
そして、今回、私が最も印象に残ったメダルは、ノルディックスキー・ジャンプの葛西紀明選手(41)=土屋ホーム=の銀メダルと、葛西選手が引っ張って獲得したジャンプ団体の銅メダルだ。なぜか。選手たちの雰囲気や言動から、素晴らしい「チーム力」を感じたからだ。その姿には、競泳の日本代表チームと重なるところがあった。
1人の力で世界の大舞台で戦うことは難しい。競泳は、個人競技であり、「チーム力」が武器となる団体競技ではない。スタート台へ立ったとき、たった一人で戦いに挑まなければならない。まさに「孤独」との戦い。私も経験したが、大きな重圧を感じ、不安や恐怖心を1人で抱える。
競泳のリレーもジャンプの団体も、戦うときは1人だ。
個人競技の「孤独」をいかに「チーム力」でカバーし、個々がベストのパフォーマンスを発揮できるようにするか-。実は競泳チームは、私が出場した14年前の2000年シドニー五輪の前からこの課題に取り組んでいた。
当時の日本代表の上野広治ヘッドコーチ(現監督)が中心となり、スタッフがミーティングを重ねた。そこでヒントを得たのが、団体競技の「チーム力」だった。「個々の力を結集しそれぞれの気持ちを一つにすることで、チームとしての目的意識を統一できると」考えた。
大舞台で極限の緊張感を感じたとき、選手の気持ちは「失敗したらどうしよう」「勝てなかったらどうしよう」と、マイナス思考に陥ってしまうことがある。そうなると、不安は大きくなり、ベストパフォーマンスをみせることは難しくなる。
そんなとき、チームの存在を感じることができたら、どうだろうか。「チームに勢いをつけよう」「次の人にいい形でバトンをつなごう」といった、気持ちになれる。自分自身の内側に気持ちを向けるのではなく、「チームのために、自分自身ができることは何か」と、プラス方向へベクトルを向けられるようになるのだ。
「競泳ニッポン」チームは、日本代表として選ばれた選手や指導者が、それぞれの所属の垣根を越え、研究や情報交換などが自然にできる雰囲気になっていた。
もちろん最初は、戸惑いもあった。代表チームといっても、同じ種目のライバル同士もいるからだ。しかし、「チームの輪」「オープンマインド」をスローガンに掲げ、意思統一を図ったことで、プレッシャーや不安、恐怖心をみんなで共有し、乗り越えていくスタイルが次第に確立されていった。
大会前のミーティングでは、メダリストや指導者が、メダルを獲得したプロセスや心構えを話した。初出場の選手も、何度も五輪を経験しているような気持ちになり、本番で落ち着いてレースができたという。
その背中で代表チームを引っぱってくれた「ヒーロー」が、北島康介選手(31)=日本コカ・コーラ=だ。シドニー五輪からロンドン五輪まで、4大会連続で出場し、「チーム」の成長に大きく貢献した。彼が世界を相手に結果を出していく中で、その姿勢を通じてチームメートに教えてくれたことを挙げればきりがない。
世界を相手にチャレンジする姿勢。自身の限界を作らず強くなるために探求する向上心。強いライバルを認め尊敬する心。何があっても勝負から逃げない強い精神力。選手を陰で支えてくれるスタッフへの感謝。周りを明るくする笑顔。チームへの責任感。そして何よりも、心の余裕から生まれる周りへの優しさ…。私も一緒に日本代表チームで戦ったことがあるので、よくわかる。
ソチ五輪での葛西選手の姿は、年齢は違うけれども、北島選手と重なった。精神的支柱として、チームを引っ張り、後輩たちはその背中から多くを学び、世界と戦う術を身につけたはずだ。葛西選手が個人戦でメダルを獲得したとき、後輩たちは葛西選手のもとへ駆け寄り、喜びを分かち合った。その様子からも葛西選手の存在の大きさが伝わってきた。そして、「チーム力」を強く感じた。だからこそ、メダル獲得につながったのだと感じたのは私だけだろうか。
「ワン・フォー・オール オール・フォー・ワン」というラグビーの世界で使い古された言葉がある。「一人はみんなのために。みんなは一人のために」。この言葉通りの結果となったのだ。
4年に一度の五輪は、私たちにたくさんのことを教えてくれる。その中の一つの「チームの力」は、スポーツの世界に限らず、読者のみなさんも、実社会もうまく活用できるのではないだろうか。(日本水連理事、キャスター 萩原智子/SANKEI EXPRESS)