SankeiBiz for mobile

田中将 1年目から真価問われる 大屋博行

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSのスポーツ

田中将 1年目から真価問われる 大屋博行

更新

【メジャースカウトの春夏秋冬】恩師であるローイ・カーピンジャー氏(左)と大屋博行氏(アトランタ・ブレーブスの国際スカウト駐日担当)=1月18日、米国(大屋博行さん提供)  【メジャースカウトの春夏秋冬】

 快調にメジャーのキャンプ、オープン戦を消化したヤンキースの田中将大(まさひろ)投手の表情は、充実しているように映る。

 ポスティングシステム(入札制度)を利用し、7年契約で総額1億5500万ドル(約161億円)と伝わった巨額契約で、伝統のピンストライプのユニホームに袖を通した。

 ブレーブスも争奪戦に加わったと日米のメディアで報道された。真偽のほどはわからない。年俸20億円クラスの選手の交渉は、球団社長らほんのひと握りの球団トップが代理人と行うからだ。

 海外選手を獲得する場合、通常なら社長とゼネラルマネジャー(GM)、GM補佐、国際部長の間で話を進めるが、今回は社長とGMが「トップシークレット」で進めた可能性もある。駐日スカウトとしての私の仕事は、田中投手の評価リポートを提出するところまでに限られ、報道された事実を確認することすらできなかった。

 ただ、ブレーブスが熱心に田中投手の調査をしたことは事実だ。私自身、昨春の第3回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)をはじめ、国内の球場にも何度も足を運んだ。ドムニック・チティーGM補佐も来日し、田中投手がプロ野球新記録となる21連勝を達成した西武ドームでの試合を視察した。

 チティーGM補佐がこのとき、「獲得に動くなら、(日本円で)100億円を超える争奪戦になるかもしれない」と話していたことが印象的だった。そして、その予想が現実のものとなった。

 夏から獲得合戦

 日米メディアの報道では、ヤンキースのほかにも、ドジャースやダイヤモンドバックスなどが獲得意思を持っていたと報じられた。私が聞いたところは、10球団ほどが興味を示していたようだ。

 私が提出したリポートでは、過去の日本人投手の中でもトップに近い評価だった。球団サイドとしては、先発3本柱の一角を担う投手を探しており、その評価に値する投手と報告した。

 理由としては、打者の手元で鋭く落ちるスプリットが一級品なことに加え、闘志を前面に出しながら投げるスタイルも、アメリカ人好みだった。

 水面下での獲得合戦は夏には始まっていたのではないか。昨年(2013年)8月には、あくまで噂話だが、「田中投手はある米球団と懇意にしており、すでに下交渉もしている」という怪情報まで流れた。もちろん、実際にそうした証拠があるわけではなく、思惑の絡んだ関係者同士が揺さぶりをかけ合うために流している可能性が高い。

 否定的な声も、スカウト仲間からチラホラ聞いた。WBCでメジャー球への対応に苦慮した点を挙げたり、「田中投手は150キロ中盤の球速をマークしているが、棒球に近い」というふうに話す関係者もいた。

 実際に10球団が獲得に関心があったということは、残る20球団が見送ったことにもなる。ただ、そこには獲得資金の問題などもあり、ネガティブな声もさまざまな思惑が絡んでいるケースがあり、うのみにはできない。田中投手の獲得合戦が熾烈(しれつ)を極めたことからも裏付けられる。

 米の怪物投手らと競う

 昨年(2013年)末、日米間の入札制度が、最高入札額の1球団のみが交渉権を得られる仕組みから、約20億円を上限に入札した全球団に門戸が開かれる制度に大きく改変された。田中投手は新たな制度での第1号での移籍だ。

 金銭的に余裕がある球団を利したことも交渉に影響しただろう。獲得したヤンキースにとっても、交渉に動いた球団にとっても、まだメジャーで1球も投げていない投手に100億円を大きく超える額を提示することは、大きな賭けだったはずだ。

 ヤンキースは過去、入札制度で獲得した井川慶(けい)投手(現オリックス)に5年総額2000万ドルを支払いながら、井川投手が活躍できず、口さがないニューヨークのメディアから痛烈に批判された。

 田中投手の同級生に米ドラフト史上最高契約額となる4年総額約14億円でナショナルズに入団したスティーブン・ストラスバーグ投手がいる。故障明けのために投球回数制限があった2012年、それでも9月途中までに15勝を挙げた大型右腕だ。彼だけではない。海の向こうには、とてつもない投手がゴロゴロといる。そんな彼らに負けない投球を見せられるか。背番号19には、1年目からその真価が問われる。(アトランタ・ブレーブスの国際スカウト駐日担当 大屋博行/SANKEI EXPRESS

 ■おおや・ひろゆき 1965年10月生まれの48歳。大阪府出身。高校中退後に渡米し、アリゾナ州スコッツデール市立コロナド高校で投手としてプレー。コロナド高を卒業後に帰国し、プロ野球阪神で練習生、歯科技工士などを経て98年に米大リーグ、アリゾナ・ダイヤモンドバックスの国際スカウト駐日担当に就任。2000年からアトランタ・ブレーブスの国際スカウト駐日担当として日本国内の選手発掘に励む。

ランキング