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青空に広がる桜の色と香り 大和田潔
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東京に桜の季節がやってきました。桜前線は北上を続けています。今年の冬は、東京ですら幾度も大雪に見舞われる厳しい冬でした。やわらかな桜色は、春の訪れを感じさせます。風が吹けば花びらが舞い、美しい風景が広がります。
桜の花片の色は、樹皮の下で作られます。花が咲く前に木の幹や樹皮を煮出すと、桜色の染め汁を作ることができます。桜の木を天板にしたカウンターに案内されたことがあります。ほんのり紅がさした茶色で、木目も細かい高級なお店の自慢の一つでした。
ごつごつした黒っぽい硬い幹の中が、実は濃い桜色で満たされていて、その力が花びらに届いて、ほんのり色付いているのだと思うと感動的です。根から吸い上げられた水を使って、桜が青空に向けて色素を広げるような生命のイメージを感じます。
桜の花エキスは、動脈硬化や老化に関連するといわれる糖化タンパク質・AGEsの生成を抑制するといわれています。桜の色は、シアニジンという色素でブドウやブルーベリーにも含まれる赤色系の植物が作りだす有機化合物です。シアニジンを変化させた化合物は抗がん作用を持ち、乳がんや卵巣がんに対する論文も報告されていて、創薬への研究が進められています。
日本人は桜の香りも利用してきました。もともとの桜の葉はあまり匂いがしません。塩漬けにして発酵させると、すがすがしい春の香りを立てるようになります。クマリンとよばれるものです。クローバーに含まれていたクマリンの仲間から、血栓予防薬のワーファリンが開発されたのは有名な話です。桜のクマリン自体には、抗血栓作用はありませんが、肝臓に負担をかけるので、桜の葉はたくさん食べずに、香りを楽しむ程度にしましょう。
青い空、緑の土手、鮮やかな桜色。満開の桜の元を初々しい新入生たちが楽しそうに通学するのは、日本の美しい風景の一つです。日本人は桜を大切にし、見て美しさを愛(め)でるだけでなく生活に利用してきました。しばしの間、美しい桜の香りと色にほんのりと包まれることにしましょう。(秋葉原駅クリニック院長 大和田潔/SANKEI EXPRESS)