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資金調達から制作まで全てが新しい マーク・ド・クライヴ-ロウ
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クラブジャズシーンを代表するアーティスト、マーク・ド・クライヴ-ロウがネット上のクラウドファンディング用サイト「キックスターター」でアルバム製作の資金調達に成功したというニュースが飛び込んできた。本来、ニューアルバムのリリースが決まったことをお祝いすべきなのだが、僕を含めた同業者が喜んだのは新たな予算確保の方法が提示されたことだった。海外にはCDショップさえない国が増え、CDビジネスの不振にあえぐ大手レコード会社が有名アーティストの作品ばかりリリースする中、マークの試みが見事な結果を出したことは、実に明るい兆しだ。
音楽的に妥協して売れ線にシフトしたり、誰かの二番煎じに甘んじれば、リスナーからそっぽを向かれるだけでなく、自己のアイデンティティーの崩壊すら引き起こしかねない。自分の信念を貫き、新作を待ちわびるファンから資金を集めることで制作費を確保する手法は、事前に必要額を算出し、資金調達ができたときにアルバム製作が可能となるため、ギャンブル的な要素を排除できるという意味でも非常に健全である。
さてこの度、無事発売されるマークのニューアルバム『チャーチ』だが、ジャズを基調にしながら、ヒップホップ、ラップ、ソウル、ロック、前衛音楽、ベースミュージックといったさまざまなサウンドの影響を取り入れた現代的なクロスオーバー作品となっている。資金調達の方法だけでなく、作品の内容にもマークの実験精神が反映されているのだから、情報が周知されればその革新性がクローズアップされるはずだ。ダンスミュージックのエッセンスをふんだんに取り入れた新世代のジャズ/クロスオーバー作品が、世代とジャンルを超えて多くの人に受け入れられることを期待したい。
折しも1970年代に活躍し、今も現役活動を続けるジャズ/クロスオーバー界のレジェンド、ドラマーのハービー・メイソンの新作にもマークは数曲参加している。ハービー・ハンコックのスーパーヒット「カメレオン」のリメークを収録した同名のアルバムが4月にリリースされたこともあり、従来のクラブ系のファンだけでなく、往年のファンにもマークの存在がいま知れわたりつつある。
そんなマークが、絶好のタイミングでプロモーション来日する。5月19日(月)は、六本木のALFIEで朋友でもある日本人ミュージシャンとトリオでジャズライブを敢行。アルバムからの曲も生演奏してくれる。
翌20日(火)は、渋谷のThe Roomにてニューアルバムの試聴会を開催。特別企画として、前日のジャズライブとは打って変わってコンピューターを使って即興でリミックスを作り出すソロパフォーマンスを披露してくれるそうだ。さらには、筆者が聴き手となってアルバムの製作秘話やキックスターターで成功した秘訣を聞き出すトークセッションも行う予定。音楽ファンだけでなく、クラウドファンディングに興味のある全てのビジネスマンまでが楽しめる夜になるに違いない。
とにかく、資金調達から音楽制作まで何から何まで新しい試みに取り組むマークの好奇心と勇気は尊敬に値する。このプロモーションツアーも自らが世界各国のプロモーターと連絡を取り、主要都市7カ所(ロサンゼルス、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ベルリン、東京ほか)で実現してみせた。
音楽業界でいい話を聞かなくなって久しいが、愚痴をこぼしている暇があるのなら他にもっとやることがあるのではないだろうか? 活路を見いだす人は常にアクティブで挑戦を続けているのだということを、音楽とその活動を通じてマークはわれわれに教えてくれているのかもしれない。(クリエイティブ・ディレクター/DJ 沖野修也/SANKEI EXPRESS)