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【逍遥の児】コウノトリが飛ぶ町
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兵庫県豊岡市の「コウノトリの郷公園」 白いコウノトリが悠然と舞う町。兵庫県北部の豊岡市。新緑の5月16日。中貝宗治(なかがい・むねはる)市長(59)が、東京都文京区の椿山(ちんざん)荘にやって来た。「日本旅のペンクラブ賞」贈呈式に出席した。
このクラブは旅を愛するライター、写真家らで結成。毎年1回、「旅ペン賞」を決める。今年は「コウノトリと共生する町づくり」を進める豊岡市が受賞した。中貝市長は「失われた大切なものを取り戻す」を演題にして記念講演。コウノトリ野生復帰計画を存分に語った。
江戸時代。コウノトリは日本列島各地に生息していた。羽を広げると、両翼間は2メートルに達する。優美な姿。「瑞鳥(ずいちょう)」とも呼ばれた。
ところが、明治以降、急速に減少していく。銃による乱獲、エサ場となる湿地の消滅、農薬…。
それでも豊岡盆地には豊かな里山が残っていた。円山川がゆったりと流れ、湿地も多い。野生コウノトリの「最後の生息地」といわれた。
しかし、なんとか生き延びていた最後の1羽が1971年、死んだ。日本の空から姿を消した。
コウノトリを復活させよう-。壮大な取り組みが始まった。85年、ロシアから幼鳥6羽を導入。飼育場で大切に育てた。4年後、人工飼育繁殖に成功。待望のヒナが誕生した。
次の目標は野生復帰だ。広大な兵庫県立コウノトリの郷(さと)公園を拠点に飼育数を増やしていった。また、野生化に向けて訓練を行った。生息環境の整備も大切だ。市民や行政が湿地の再生や人工巣塔設置を進めていった。
「子供たちが田んぼに入り、熱心に取り組んだのです」
2005年秋、5羽を試験放鳥した。コウノトリは力強く、青い空に羽ばたいていった。中貝市長は「やったあ」と叫んだという。
現在、飼育されているのは約90羽。野外には約70羽。韓国まで飛んでいった「冒険家」もいるそうだ。
「コウノトリとの約束を守る。命への共感が私たちの原動力でした。コウノトリは長い歳月を経て、再び風景のなかに溶け込んでいった。物語は今も続いています」(塩塚保/SANKEI EXPRESS)