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【日本遊行-美の逍遥】其の九(ヤハラヅカサ・沖縄県南城市) 夏至の太陽の光を照り返す

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【日本遊行-美の逍遥】其の九(ヤハラヅカサ・沖縄県南城市) 夏至の太陽の光を照り返す

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夏至の日、黄昏時のヤハラヅカサの海の向こうに現れたスーパーフルムーン。太陽の光を照り返し、いつもより一段と大きく見える。石碑は満潮時には水面に隠れ、干潮時には全貌を現す。向こうに久高島も見える=2013年6月23日、沖縄県南城市(井浦新さん撮影)  古くから人間は、太陽の軌道が変化するにつれ、季節の移り変わりを感じ、春分、夏至、秋分、冬至などの節目としての意味づけを行ってきた。そして暦を刻み、太陽の動きに地理的な場所をつなげることで、いまここにいる自らの位置を確認し、大自然との一体感を見いだしてきたように思える。

 例えば、伊勢神宮の近くにある二見浦の夫婦岩は、夏至近くになると2つの岩のあいだに富士山のシルエットを映し出しながら太陽が昇り、劇的な光景が展開される。

 このような神秘的な風景と、全国の神事や信仰とのつながりには想像力をかき立てられる。一年のうちでも、とりわけ夏至と冬至は、このようなダイナミックな天体ショーが各地で繰り広げられる特別な日だ。僕はいつの頃からか、この両日には、太陽がどこから昇り、どこに沈むのかを、意識して過ごすようになった。

 以前、仕事で奄美大島に長期滞在したとき、ノロ(祝女)の方に初めてお会いする機会に恵まれた。彼女の言葉に導かれるように、ノロの源流を求めて、昨年の夏至の日、ヤハラヅカサ(沖縄県南城市(なんじょうし))という聖地に赴いた。古代琉球の祖「アマミキヨ」がニライカナイ(海のはるか彼方にある神々の住む理想郷)から渡来し、久高島(くだかじま、南城市)に次いで沖縄本島に初めて上陸したという場所だ。

 この日は夏至とあって、僕はいつものように太陽を気にしていた。仕事を終えて、慌てて車を走らせた先は、沖縄本島の東、太陽が沈む方向とは正反対の浜川原海岸だった。日没にはギリギリ間に合ったが、満潮とあって、「ヤハラヅカサ」と記された石灰岩の石碑が水面に沈んでいた。干潮時でなければ近くまで渡ってその姿を拝むことができない。澄み渡った空気、水平線。何もないからこそ見えてくる美しさ。そして海の向こうに現れたのは、光り輝く大きな満月だった。夏至の太陽の光を照り返したスーパーフルムーンは、静かであると同時に、あまりにも厳かだった。

 ≪神聖かつ穏やかな力に満ちた地≫

 札幌出身で沖縄在住の写真家、武安弘毅(たけやす・こうき)さんは、「真夜中写真部」という、深夜に写真や映像を撮る面白い試みを続けている方だ。後日、改めて沖縄を訪れた際、旧知の間柄である武安さんに、「真夜中の聖地に連れて行ってほしい」とお願いした。「君なら、きっと興味深く感じると思うよ」と、連れて行ってくれたのは、那覇から車で1時間ほどの距離にある浜比嘉島(はまひがじま、沖縄県うるま市)だった。なんとそこは偶然にも、アマミキヨが琉球王朝のノロとして祭祀(さいし)をつかさどりながら、人との交わりを遮断され、居住地として限定された場所でもあったのだ。

 本島から橋でつながれた浜比嘉島に入る。車を降りて武安さんの後ろ姿を追いながら、引き潮の岩場を渡った。

 浜比嘉島には、「アマジン」と呼ばれる最も神聖な場所で、アマミキヨの眠る墓もある。同じ島の南端にあるシルミチュー霊場は、108段もの石段を登り切ったところにあった。月明かりに照らされたその地は、神聖かつ穏やかな力に満ちていた。

 「シルミチュー」とは、アマミキヨとともに琉球開闢(かいびゃく)神話に登場する男性の神の名で、アマミキヨと一緒に子供をもうけ、その後、彼らの子孫としての人間が増えていったという。現在でも居住跡には、比嘉のノロが中心となって行う年頭拝みの伝統が残っており、子宝の霊場としての信仰を集めているそうだ。

 ノロは、神々と交信できる存在で、16世紀の琉球王朝によって制度化され、公的な神女組織となり、国家の行事をつかさどっていた。しかし同時に、歴史の表舞台には現れにくい存在だった。太陽と月、王朝とアマミキヨ。万物の背後には、隠れた力が作用している。沖縄は、それが闇間に消えることなく、かすかな光に照り返されながら、伝承されている大切な場所だと思った。(写真・文:俳優・クリエイター 井浦新(いうら・あらた)/SANKEI EXPRESS

 ■ノロ 奄美大島や沖縄で村落の公的祭祀(さいし)をつかさどる神女。ノロはノロ殿内(どんち)に住み、火の神や御嶽(うたき)の神の祭祀を通して領内の人々の繁栄や平和を祈る。

 ■いうら・あらた 1974年、東京都生まれ。代表作に第65回カンヌ国際映画祭招待作品「11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち」(若松孝二監督)など。ヤン・ヨンヒ監督の「かぞくのくに」では第55回ブルーリボン賞助演男優賞を受賞。

 2012年12月、箱根彫刻の森美術館にて写真展「井浦新 空は暁、黄昏れ展ー太陽と月のはざまでー」を開催するなど多彩な才能を発揮。NHK「日曜美術館」の司会を担当。13年4月からは京都国立博物館文化大使に就任した。一般社団法人匠文化機構を立ち上げるなど、日本の伝統文化を伝える活動を行っている。

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