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ロシアの苦境 対中ガス輸出で浮き彫り 

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ロシアの苦境 対中ガス輸出で浮き彫り 

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中国・上海市  【国際情勢分析】

 ロシアは5月、中国への巨額のガス輸出契約で合意した。しかし、その後浮かび上がってきたのは、苦しい交渉を余儀なくされたロシアの姿だった。ウクライナ情勢で国際的に孤立し、経済状況も悪化するなか、ロシアは中国の意向を多分に受け入れざるを得なかったようだ。

 採算ぎりぎりで妥協

 「ソ連、ロシア時代を通じ、ガス分野で最大の契約だ」

 ウラジーミル・プーチン露大統領(61)は5月21日、ロシア国営ガスプロムと中国石油天然ガス集団(CNPC)が結んだ30年間で売却総額4000億ドル(約40兆8000億円)のガス輸出契約を、そう評価した。

 ただ焦点となったガスの売り渡し価格をめぐっては、報道が錯綜した。アレクサンドル・ノバク・エネルギー相(42)は「1000立方メートル当たり約350ドル」と発言。350ドルは、ロシアにとって採算ぎりぎりの価格とされ、対欧州輸出価格よりも安く、ロシア側が大きく妥協したとの印象を与えた。

 一方、5月22日の露紙コメルサントは、輸出開始当初はガスの供給量が制限されるため、「現在の欧州向け価格と同水準の380ドル程度になる」と分析。中国側との交渉で、ロシア側の希望が通ったとの見方を伝えた。

 ただコメルサントは、中国側はガスプロムが希望したパイプライン建設などに充てる250億ドル(約2兆6000億円)の前払い金支払いに合意しなかったとも指摘した。中国は、輸出価格を引き下げなければ、前払い金を支払わない考えだったという。結局、この点についての協定は調印されず、秋に延期されることになった。

 対日牽制にも同調

 すると6月に入り、プーチン大統領がガスプロムに対し、中国に先払いを求めたのと同額の250億ドルの増資を行う準備があると報じられた。6月5日付のコメルサントは、「(前払い金は)確実な合意はなく、まさにそのために増資の話が持ち上がった」と指摘。中国側の対応が見通せないなか、ロシア政府がガスプロムの支援に乗り出した可能性がある。輸出価格では合意したが、ロシア政府による“持ち出し”で、無理やり価格を維持したともみられかねない動きだ。

 一方、5月20日に発表された中露首脳の共同声明では、両国は中国側が呼びかけていた来年の「戦勝70周年」記念行事を合同開催することで合意した。これは、「ドイツのファシズムと日本軍国主義に対する」戦勝記念行事と明記され、対日牽制を念頭に置く中国に、ロシア側が歩調を合わせた形となった。さらに(5月)21日に東シナ海で行われた中露の海軍合同演習では、両首脳が視察した。中国による日本に対する牽制の意図があったのは明確で、それもロシアが中国との関係を重視した格好だ。

 中国には多様な輸入先

 プーチン大統領はその直後の(5月)24日に行われた日本の通信社などとの会見で、「ロシアと中国の友好関係は(日本に)対抗するものではない」と述べた。

 しかし、実際の行動とは明らかに矛盾している。それだけ、ロシアは中国の意向を踏まえざるを得なかった状況が浮かび上がる。

 中国へのガス輸出合意は、「(ロシアの対中接近を嫌う)米国を、ロシアとの対話に向かわせる最後の手段」(5月22日付の英紙フィナンシャル・タイムズ)だったとされるほど、ロシアにとり重要な意味を持つが、中国にとっては、天然ガスは中央アジアなどロシア以外の多様な輸入先があり、「(ロシアよりも)地政学的な重要性ははるかに低い」(フィナンシャル・タイムズ)と指摘されている。

 ロシアにとっても、合意された輸出量は対欧州輸出量の25%に過ぎず、中国はガスの対露依存の軽減を急ぐ欧州の代替市場にはなりえない。ロシアにとり、合意は決して手放しで喜べるものではなかったと言えそうだ。(国際アナリスト EX/SANKEI EXPRESS

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