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間違った電車に乗ったとしても… 映画「めぐり逢わせのお弁当」 リテーシュ・バトラ監督インタビュー
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「いつかユーラシア大陸を電車で横断してみたい」と語るリテーシュ・バトラ監督=2014年7月28日、東京都千代田区(栗橋隆悦撮影) 「人は、たとえ間違った電車に乗ったとしても正しい場所へと導かれる」-。インドのリテーシュ・バトラ監督(35)が中年男女の淡い恋心を描いた初の長編「めぐり逢わせのお弁当」の中で好んで使ったフレーズだ。作中には電車がたびたび登場し、新たな人生へと踏み出した登場人物たちを乗せて、本来向かうべき目的地へと運んでいく。「脚本を執筆中に偶然思いついたフレーズで、とても気に入っているんだ」とバトラ監督。聞けば大の鉄道ファンだそうで、日本語で「鉄ちゃん」とも呼ばれることを知るや、「僕も次回の来日ではぜひ新幹線に乗ってみたいですね」とうらやましそうな表情を浮かべた。
鉄道の旅こそ人生-。バトラ監督が自分の人生観を忍ばせた本作で、登場人物たちの人生を方向づける“スパイス”として使ったのが、監督の故郷、ムンバイで大勢の市民が利用している「宅配弁当」のシステムだ。ムンバイには「ダッバーワーラー」という弁当配達人が約5000人おり、彼らは約20万人分の弁当を自宅から職場まで届け、空箱を自宅に戻す。誤配の確率は600万分の1に過ぎないそうだが、バトラ監督は誤配が引き金となって起きた男女の淡い恋物語に本作を仕立てた。
主婦のイラ(ニムラト・カウル)は、会話すらなくなった夫の愛情を取り戻そうと、腕によりをかけて4段重ねの弁当を作り、ダッバーワーラーに託すが、弁当は定年間際の男やもめ、サージャン(イルファーン・カーン)のもとへ誤って届けられてしまう。イラは空っぽになって戻ってきた弁当箱を見て胸を躍らせるが、夫の反応は薄い。不審に思ったイラは翌日、弁当に手紙を忍ばせ…。
サージャンの会社の後輩、シャイク(ナワーズッディーン・シッディーキー)を含め、主要な登場人物3人が心のよりどころとする宗教が、イスラム教、ヒンズー教、キリスト教とそれぞれ違うことに目を見張るだろう。「まるで違うバックグラウンドを持つ登場人物を描くということは、多文化が共存するムンバイを描くうえで重要なこと。それらが不思議と有機的につながってくるからです。敬虔(けいけん)さの度合いとか宗教的な側面を描くことは重要ではありませんでした」
作品にはラッシュアワーを迎えた夕方の満員電車の中で、やっとの思いで座席を確保するや、カバンから料理のまな板と包丁を出し、野菜を切り始める会社員まで登場する。脱サラをして映画監督になった異色の経歴を持つバトラ監督は、歌あり踊りありのいわゆるマサラムービーを一切捨て、真正面からリアルな人間描写に斬り込み、夫婦とは何か、家族とは何か、幸せとは何かを静かに追い求めた。8月9日から東京・シネスイッチ銀座ほかで公開。(文:高橋天地(たかくに)撮影:栗橋隆悦/SANKEI EXPRESS)
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