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業界最大容量705リットルの「スマート冷蔵庫」 三菱電機 商品開発に主婦の声生かす

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業界最大容量705リットルの「スマート冷蔵庫」 三菱電機 商品開発に主婦の声生かす

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調理鍋やサラダボウルを丸ごと入れても余裕のある大容量。チルドの下には新型冷蔵庫のウリの一つ「氷点下ストッカー」=2014年8月6日(ニュースペース・コム撮影)  国内の冷蔵庫市場は、2010年度のエコポイント特需で445万台になり、13年度は消費税増税にともなう特需で466万台に増加。14年度は396万台の需要予測になっているが、ここ数年の特徴は501リットル以上の大型冷蔵庫が増えていることだ。11年度は全需要における構成比で16.4%だったのが、14年度には20%にまでアップしている。このため、業界では大容量の冷蔵庫開発が焦点となって、シェア争いも激しい。

 断熱材を薄く

 三菱電機では静岡製作所が冷蔵庫開発・製造販売を担うが、ここ数年の課題はやはり大容量化だった。冷蔵庫は横幅と高さを大きくすれば容量は増えるが、家庭用では設置幅も高さも限られる。限られた範囲で、いかに容量を増大させるか。国内で製造販売する冷蔵庫の技術開発の責任者である大矢恵司・技術第一課長はじめ技術陣が取り組んだのが、側面や扉面の断熱材をいかに薄くするか、だった。外壁が薄くなれば当然、同じ横幅、高さでも容量は増大する。

 技術陣が開発したのが、ウレタン発泡技術と高性能の真空断熱材を採用した独自の「薄型断熱構造スマートキューブ」。

 アイデアは真空断熱材の使用面を増やして接着剤となるウレタンを極力少なくすることで、断熱性能はそのままで薄型化を図ろうというものだった。これで従来の厚さに比べ大幅に薄くすることが可能になったが、問題は薄くなった分だけ製造にあたってのウレタンの扱いが難しくなることだった。

 使いやすく工夫

 大矢課長は「曲面の部分を含め、いかに全体を覆うかがポイントだったが、これには設計面というより製造技術の面での工夫が大きかった」と振り返る。

 こうしてまず12年に、本体幅68.5センチで業界初の600リットルを実現。これは従来品より145リットルも増量した画期的なものだった。13年には605リットルを発売、今年はついに本体幅80センチで、業界で最大容量となる705リットルを達成した。

 新シリーズの特色は大容量だけではない。容量が増加した利点を生かして、いかに使いやすくて、さらに食品の鮮度を長持ちさせておいしさを保つか、ということだ。この工夫の裏には、教訓となった象徴的なエピソードがあった。11年当時の冷蔵庫には、「回るん棚」と呼ばれる機能が搭載されていた。

 冷蔵室の上段に円盤状の回転棚が設けられ、背の低い主婦層らには手の届きにくい上段奥のスペースを有効活用できるアイデアだった。ユーザーの評判も上々というものだったが、実際の声は違った。よくユーザーの意見を聞いてみると、それほどには利用されていないという実態が明らかになった。この結果は、メーカーとユーザーの考え方にずれがあることを示すものだった。この反省から12年に、「ユーザーとしっかり対話しよう」という共創共感プロジェクトチームが生まれた。マーケティング、デザイン、設計、営業など各部署からなる10人のメンバーで構成、大矢課長もメンバーの一人だ。まず、チームが実行したのが主婦への調査。単なるアンケートでは「本当のこと」は分からない。そこで、10世帯の家庭に絞って、日々どのように冷蔵庫を使っているかという詳細な実態調査を行い、主婦300人からは実際に使っている冷蔵庫の写真を提供してもらった。そのうえで直接面談して「生の声」を聞いた。

 その結果、明らかになったのが、主婦のもっとも強い要望は毎日使う頻度の高い中段部分の使い勝手の良さということだった。使う頻度が高いだけに、整理が悪く、食品がごちゃ混ぜ状態になる主婦が多いことも分かった。プロジェクトチームは、この肩より下の高さの中段部分を「ゴールデンゾーン」と名づけて、使いやすさを追求した。

 大矢課長は「私の役割は、技術と販売の戦略とをうまく重ねて機種ラインアップを作り上げること。大容量を実現した今回の新シリーズでは、これに食品を凍らせずに鮮度を長持ちさせる氷点下ストッカーを新しく搭載することで、ゴールデンゾーンの使いやすさと食品のおいしさを両方実現できると考えました。従来のチルド室をワイドにして乳製品や加工食品、臭いが気になる肉や魚などは氷点下ストッカーに分けて収納することで整理しやすくし、その上段の冷蔵室の棚は、すぐ取り出すものや調理したものの保存に使えるようにしました」と話す。

 705リットルの大容量冷蔵庫は予約販売を含め、計画を上回るほどの順調な売れ行きをみせている。業界最大という他社を圧倒する差別化と、主婦の生の声を徹底的に生かした工夫が奏功、主力の大型市場でシェアの大幅拡大をめざす。

 ≪解凍してもうまみ成分維持≫

 氷点下ストッカーは、冷蔵室・ワイドチルド用とは別に、精度を向上させた温度センサーなどを搭載。独自の気流制御で温度変化を最小限にし、食品の内側と外側の温度差を抑えることで過冷却状態(0℃の凍結点を過ぎても凍り始めない状態)を作り出し、氷点下(約マイナス3~0℃)でも食品を凍らせないで保存することができる。凍らせないために細胞破壊によるドリップの流出を防ぎ、栄養素を逃がさず食品のうまみをキープする。

 新シリーズには、切れちゃう瞬冷凍も搭載されている。これは、氷結晶を細かく抑える独自技術の「瞬冷凍」によって、食品の細胞破壊を抑制。解凍しても食感やうまみ成分を維持する。約マイナス7℃で凍らせるので、解凍なしにサクッと切れてすぐに調理することができる。

 三菱電機(東京都千代田区)は、本体幅80センチで業界最大容量705リットルを実現、これに新技術「氷点下ストッカー」を搭載して「使いやすさとおいしさ」の両方を追求した冷蔵庫を6月に発売したのに続き、さらに一般的な本体幅68.5センチでも最大容量605リットルと同様機能を実現した新商品を今月(8月)に発売した。大容量冷蔵庫は、まとめ買いの機会が多くなるなど時代の要請を受けて人気が高く、全体のシェアも増大している。この業界最大容量を成し遂げた裏には、三菱の技術力と開発チームの「徹底して主婦の生の声を聞く」共創共感の戦略があった。(ニュースペース・コム編集部 福田光洋、写真も/SANKEI EXPRESS

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