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愛しのラテンアメリカ(15)ペルー 空中都市造った人々の勤勉さ
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「撮影料を稼ぐため、母親と数時間歩いてクスコにやってきた」と話した少女=ペルー・クスコ(緑川真実さん撮影) 世界遺産マチュピチュ観光の朝は早い。起点にした街、クスコの出発は午前2時。マチュピチュ行き列車が発車するオリャンタイタンボ駅に向かうバス乗り場までタクシーを拾うため、小雨が降りしきる中、宿を出発した。時折強盗被害もあるという、薄暗い石造りの小道を早足で進む。タクシーが停車する広場に着くと、まだバーやクラブはにぎわい、酔った千鳥足の若い観光客がたむろしていた。
その中に、雨にぬれないよう透明のビニールをかぶせた籠を抱え、ショールをかぶった先住民の老女が軒下に座っていた。たばこやチョコレート、ガムなどを観光客相手に販売していたのだ。
「バス乗り場」とは名ばかりの広い駐車場に到着すると、深夜にもかかわらず、10代に見える少年も含め運転手や車掌など、オレンジ色の電球に照らされて働く男たちの熱気が漂っていた。
インカ帝国の首都だったクスコは、リマの現代的な様子とは違い、今でも街、人、共に“先住民色”が濃い。
そしていつでも、どこかで誰かが働いている。それはもちろん、貧困ゆえ生活するためでもあるが、彼らは総じて働き者に見えた。そしてその印象は、とてつもない労力が必要だったであろう、急峻(きゅうしゅん)な尾根の上に空中都市と称されるマチュピチュを建設した、人々の勤勉さにつながった。
≪地元民には近くて遠い観光地≫
マチュピチュ村は、その名の通りマチュピチュの足もとに位置する。この村で一泊する観光客も多く、村自体は小さいが、安宿から高級ホテルまで宿泊施設は豊富にそろっている。以前は観光ルート沿いにテントを並べていた土産物屋は、駅前にコンパクトにまとめられ、効率よく買い物を楽しめるよう整備されていた。
マチュピチュ観光は2度目。前回は村から遺跡まで急な山道を数時間かけてひたすら上ったが、今回は15分程度で着くバスで向かった。たった15分なのに片道約1000円とは法外な値段だが、仕方なくバスチケットを購入する。
帰りのバスで知り合ったクスコ在住の母親と娘の親子は、旅の疲れも見せずはしゃいでいた。「やっとマチュピチュに行くことができたの」と笑顔で話すのは、母親。娘は修学旅行で訪れたことがあり、2度目という。「近くに住んでいるのに初めて行ったの」。私が母親に尋ねると「そうよ。ほら、お金がね」と本音をこぼした。
ペルー国家統計情報局によるとここ数年、年間約100万人の観光客が訪れるマチュピチュ。その内の約3分の1が地元観光客とあるが、実際に訪れたことのあるペルー人に会うことは珍しい。その理由の一つが料金の高さだ。地元割引は各所に設定されているが、それでも交通費と入場料、宿泊費も合わせると1人当たり1万円はくだらない。平均月収が約3万円というペルー人に、マチュピチュ観光の経済的余裕はないだろう。
地球を半周してマチュピチュを見に来る日本人と、近くて遠いマチュピチュを思うペルー人。ひとつの世界遺産をめぐって、経済格差による皮肉が見え隠れしていた。(写真・文:フリーカメラマン 緑川真実