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【逍遥の児】房総の古民家で暮らす青年

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【逍遥の児】房総の古民家で暮らす青年

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 田舎の古民家で暮らしたい。いつの日か-。そんな願望を抱いても、なかなか実現できないのが現実だ。

 ところが、編集者、沼尻亙司(こうじ)さん(32)は、さらりとやってのけたという。どんな青年だろう。会ってみたい。

 房総半島南部。千葉県勝浦市。海岸から離れた里山。市野川地区。約60戸の集落だ。一角に豪壮な屋敷が建つ。築約150年(推定)。りっぱな長屋門をくぐる。広々とした庭。玄関先に立つ。声をかけた。奥から眼鏡をかけた青年がにこやかに現れた。沼尻さんだ。

 「どうぞ。お上がりください」

 居間にはいろりが切ってある。どっかと座って取材を始めた。

 沼尻さんは船橋市出身。地域情報誌などの編集を手がけてきた。昨年(2013年)、勝浦市地域おこし協力隊に志願。移住した。まずは海に近い町のアパートを借りて新生活スタート。市野川の古民家が空き家となっていることを知った。家賃も手頃。いい機会だ。今年4月、意を決し、1人暮らしを始めた。

 とにかく広い。母屋には8部屋。普段使う玄関とは別に、正客を迎える特別な玄関もある。

 「江戸時代、格式の高い農家だったようです。侍はこの玄関から上がり、客間に通されたそうです」

 客間は、床の間付きの12畳。縁側の向こうに庭園。涼しい風が通る。

 ――どんな風に暮らしているのですか。

 朝6時ごろ。鳥のさえずりで目覚める。裏で畑仕事。朝食はご飯、みそ汁と納豆。

 「みそ汁の具は、近所の農家からいただいたナスやジャガイモなどです。ご近所さんとこんなに親しくなれるとは思っていなかった」

 車で出勤。漁港に近い事務所で本来の業務につく。広報紙で「かつうららしい人」を連載。また、勝浦の魅力を取材して市内外に発信する。

 夕方。帰宅。日が暮れていく。

 「ホタルがふつうに飛んでいます。月がまた、美しいんです」

 満月の夜。庭にテーブルを持ち出し、「月見そば」としゃれ込むこともある。テレビはない。ゆったりと読書して深い眠りにつく。青年は「最高ですよ」といってさわやかに笑った。(塩塚保/SANKEI EXPRESS

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