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社会
三陸鉄道1122日ぶり全線開通 遠い再生 人口流出と資金難の壁
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NHKの連続テレビドラマ「あまちゃん」で、三陸鉄道がモデルとなった北三陸鉄道の駅長役を演じた杉本哲太さんも駆けつけ、全線開通を祝った=2014年4月6日、岩手県久慈市(高木克聡撮影) 東日本大震災で被災した岩手県の三陸鉄道は4月6日、最後まで不通となっていた北リアス線小本-田野畑間(10.5キロ)の運行を再開した。5日に開通した南リアス線と合わせた全107.6キロが1122日ぶりに完全復旧し、開業30周年で再出発を果たした。沿岸被災地は、バス高速輸送システム(BRT)に姿を変える路線も多く、鉄道の復活は沿線住民にとっては悲願だった。
久慈市の久慈駅を6日早朝に発車した3両編成の上り一番列車には、鉄道ファンら50人以上が乗車した。
連続テレビ小説「あまちゃん」で「袖ケ浜駅」として登場した堀内駅(普代村)付近などでは、住民が大漁旗を振って歓迎した。
久慈駅では復旧を祝うイベントが開かれ、全国から集まった観光客や鉄道ファンが地元住民らと喜びを分かち合った。
金野淳一運行本部長(53)は「震災から3年という時間がたち、多くの人にご不便をかけましたが、この日を迎えることができました」と完全復旧を宣言した。
悲願だった全線開通について、望月正彦社長(62)は「きょうは三陸鉄道の第2の開業の日」と話しながらも、「人口減少などで、これからの方がむしろ厳しい状況になる」と気を引き締めた。
「あまちゃん」で三陸鉄道をモデルにした「北三陸鉄道」の駅長を演じた杉本哲太(てった)さん(48)と副駅長役の荒川良々(よしよし)さん(40)も駆けつけ、杉本さんは「北三陸の駅長としてもうれしいです」とお祝いムードに花を添えた。荒川さんも「私もここに帰ってきました」と集まった人たちを喜ばせた。駅のホームや周辺には約2000人が集まり、2人が乗った宮古行きの記念列車を見送った。
≪遠い再生 人口流出と資金難の壁≫
岩手県の三陸鉄道は2014年度、全面復旧の効果で乗客数を前年度から33万人以上増やし、83万人とする計画だ。それでも東日本大震災が起きた10年度(85万人)には及ばず、人口流出などで目標達成も厳しい。被災地では資金の壁からJRの運休が続いており、鉄路再生の道のりは遠い。
災害公営住宅など被災者の新居は主に駅から離れた高台に建つ。市街地の復興は進まず、三陸鉄道では近くが更地の駅が多い。島越駅(田野畑村)周辺では世帯数が減ったことで、商店も再建しなかった。地元自治会の下村博光さん(72)は「周りに家がない。高台から下りてきて乗ってくれるのか」と表情を曇らせる。
内陸部などへ新天地を求める動きも追い打ちをかけ、沿線8市町村の人口はこの3年間で1万人以上減った。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」の効果で、13年度の団体客数は2月までで前年の2倍近くに伸びた半面、定期券の客数は微増で、「観光列車以外は空気を乗せている」と自嘲する社員もいる。
体力の弱い三陸鉄道は国費の投入で立ち直ったが、黒字会社のJR東日本は支援対象外。自助努力を迫られ「採算度外視というわけにはいかない」(関係者)との立場で、宮城、福島を含む3県沿岸部のJR線約246キロは運休が続く。
このうち三陸鉄道の北リアス線(宮古―久慈)と南リアス線(盛―釜石)を結ぶJR山田線の釜石―宮古間は1月、JRが施設を復旧させ、運行を三陸鉄道へ移管する案を提示。再開の道筋は見えてきたものの、今後の赤字補?(ほてん)をめぐって地元自治体と綱引きが続く。
大船渡線、気仙沼線の一部はバス高速輸送システム(BRT)で「仮復旧」。JR東は本復旧に計1100億円が掛かると試算し、公的支援を求めるが、曲折は必至だ。東京電力福島第1原発事故で、常磐線の全面復旧は見通しも立たない。
国土交通省幹部は、費用負担などの在り方に関し「住民の納得を得ながら進めることが大事。時間がかかるのは仕方ない」と話す。(SANKEI EXPRESS)