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ワッペンに化けた妖怪たちの百鬼夜行 京東都(きょうとうと)
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京都の刺繍(ししゅう)ブランド「京東都(きょうとうと)」のショップ。天井には一反もめんが!=2014年8月11日、京都市東山区(津川綾子撮影)
今、子供たちの間で大ブームなのが、かわいい妖怪たちが登場する「妖怪ウォッチ」というゲーム(アニメもある)。だじゃれのようなネーミング、いびつな表情など妖怪には怖さというより愛嬌(あいきょう)が漂う。そんなチャーミングな妖怪たちをアクセサリー感覚のワッペンにしたのが、京都の刺?(ししゅう)ブランド「京東都(きょうとうと)」だ。古都の情緒を堪能できる東山界隈へ、京東都の本店を訪ねた。
京東都ではワッペンを「和片(わっぺん)」と書く。「おやじギャグみたいなのですが…」とデザイン担当の堀場佳代子さん(40)は謙遜して言うが、このネーミングの通り、京東都には「和」をモチーフにしたかわいい刺?の和片がずらりとそろう。
中でも「百鬼夜行」シリーズの妖怪和片は人気が高い。堀場さんは、室町~江戸時代の絵師が、夜な夜な洛中をそぞろ歩く化け物を描いた「百鬼夜行図(絵巻)」など、妖怪に関する古い資料を参考にして「これは」と目に留まった妖怪を選抜し、オリジナルのデザインで和片に。100の妖怪がある。古い絵の妖怪は表情などがおどろおどろしいが「そのままではグロテスクな感じになるので、怖さはほんのりと残しつつ、ユニークで親しみの持てる表情にしました」と堀場さん。加えて、刺?する機械の糸の調子で、描線がゆらぎ、それが輪郭や顔立ちに素朴な味わいを生む。「刺?で描くという制約ならでは。元の図柄は同じでも、いろんな表情の和片ができてきます」という。
色使いもポップだ。桃色、水色はパステル調で、黄緑や黄色には蛍光色も採用。さらに蓄光機能のある白い糸を使い、暗闇で白い部分があやしく光るという仕掛けもある。「シャツの胸元などにワンポイントとしてあしらったり、和装の足袋につけたり。中には何個も使ってオリジナルの物語を表現して楽しむ方もいる」という。
もし和片を複数組み合わせ、物語を空想して遊んでみるなら、京の街並みと風俗を俯瞰(ふかん)で描いた?風絵「洛中洛外図」がモチーフの手ぬぐいがおすすめだ。第一扇、第二扇…と〝エリアごと〟に?風絵の図柄を手ぬぐいにした。東本願寺、五条橋、清水寺…など好みのエリアの手ぬぐいを舞台にオリジナルの百鬼夜行図を作るのも楽しそうだ。
京東都のブランド誕生は2007年。京都・亀岡の刺?工房「ドゥオモ」が、「京都の伝統」と「東京の今」の要素を掛け合わせ、和のデザインを世界に発信する刺?ブランドとして立ち上げた。当時、紳士・婦人服の刺?加工の下請け受注は先細りの一途。そこで別のデザイン会社でドゥオモ社のホームページを手掛けていた堀場さんが「刺?の面白さがひと目でわかるブランドを作っては?」と投げかけ、京東都が誕生。2007年に展示会「デザインタイド トーキョー」で、友禅の墨染め技術で染めた手ぬぐいに、赤い糸で漢字のモチーフを刺?した「かちんシリーズ」を発表。反響が大きく、アイテムの展開が広がっていった。
和片が最初にできたのは、10年。洛中洛外図の中の人々をモチーフにした。洗濯や井戸の水くみなどして働く女性、托鉢する僧侶などを、刺?機械の制約により一筆書きのような表情で和片にしたところ、これが好評を得た。
今では、アイテムのデザインも種類も豊富になった。金・紅・白の色で「花結び」「亀」「鯛」などめでたいモチーフをポップなデザインに仕立てた「縁起物」シリーズや、伏見稲荷の「千本鳥居」の間隔や、比叡山延暦寺の石段の幅など、京都界隈の名所や世界遺産の現場で実測して見つけた「縞柄」を、播州織(兵庫県西脇市)と、京都の染物技術で表現したストールの「ニッポン・キョウト・シマシマシリーズ」なども誕生。最近は、仏パリの展示会「メゾン・エ・オブジェ」や独フランクフルトの見本市「アンビエンテ」などで好評を得て、海外のセレクトショップと取引も決まった。
京東都のグッズに〝化けた〟妖怪たちがパリのシャンゼリゼ通りをそぞろ歩く…そんな空想が現実になる日も、やってきそうだ。(津川綾子/SANKEI EXPRESS)
※価格はすべて税別です。