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一粒で何度もおいしい「谷垣幹事長起用」

 なぜ安倍晋三首相は、自民党総裁経験者の谷垣禎一(さだかず)前法相を新幹事長に抜擢(ばってき)したのか。「重厚なサプライズ」(高村(こうむら)正彦党副総裁)の背景を探ってみると、消費税率引き上げへのリスク軽減と長期政権への布石という、2つの思惑が透けてみえる。首相にとって、「谷垣幹事長」の費用対効果は抜群といえそうだ。

 谷垣幹事長の起用について各社の世論調査では、読売新聞が59%、日本経済新聞は46%、毎日新聞は47%が「評価する」と回答。読売、日経では「評価しない」を20ポイント近くも上回った。谷垣氏の登用は、女性閣僚の積極採用と合わせ、安倍内閣の支持率を10ポイント近く押し上げる2大要因となった。

 首相は谷垣氏の起用を「8月初旬には考え始めていた」というが、恥ずかしながら産経新聞を含め全社がノーマーク。首相は菅義偉(すが・よしひで)官房長官とともに谷垣氏に直談判し、「総裁まで務めた方に失礼を承知でお願いしたい」と熱心に口説いたという。

 首相が谷垣氏に白羽の矢を立てた最大の理由は、晩秋に迫る消費税率再引き上げの判断を容易にするためだ。

 首相は、消費税率を法律通り来年10月に10%に引き上げるかどうかを、今年11月末から12月にかけて判断する。しかし日本経済は4月に消費税率を8%へ引き上げた後遺症から立ち直っておらず、再増税への環境は厳しい。加えて今夏は天候不順が響いてデパート売上高などが伸び悩み、首相が再増税の判断材料とする7~9月期の経済指標も悪いとの観測が広がっている。

 首相が既定方針通りに増税すれば、さらなる景気の冷え込みを招くのは必至。かといって引き上げを見送れば、自民党内の財政再建派から猛反発を受けるのは避けられない。首相にとってはどちらの決断をしても、政権運営に大きなダメージを受けることになる。

 万一増税見送りとなれば、批判の先陣に立つのは、自民党総裁として、民主党政権の野田佳彦首相と公明党の山口那津男(なつお)代表の3氏で、増税の「3党合意」を結んだ谷垣氏にほかならない。数人の自民党重鎮は、見送りの事態も予測して、谷垣氏に「首相と距離を置け」とアドバイスしていた。仮に谷垣氏が閣内に入り増税見送りを黙認すれば、谷垣氏の政治生命に重大な影響が出るからだ。

 長期政権への布石

 今回、首相は谷垣氏を幹事長に据えたことで、党内を「財政再建派」「経済成長重視派」に分裂させる芽を摘んだ。谷垣氏は幹事長就任にあたり、「首相に増税の確約をさせなかった」(谷垣氏周辺)。谷垣氏が首相のために、一方的に大きな政治リスクを背負った形だが、その分、首相は増税判断のフリーハンドを得た格好だ。

 首相にとって、谷垣氏を幹事長に起用するもう1つの利点は、石破(いしば)茂地方創生担当相による「ポスト安倍」への動きを大幅に鈍らせられることだ。

 谷垣氏は12年の総裁選で再出馬をあきらめ、自民党内では「次期首相への道はほぼなくなった」(閣僚経験者)とみられていた。その谷垣氏は、今回の人事で石破氏と幹事長を交代する形で復権。逆に石破氏はラジオ番組で「幹事長続投希望」と公言したミスもあり、「ポスト安倍」レースで谷垣氏の先を進むのは、相当難しい状況になったといえる。

 もっとも来秋の次期党総裁選で、党幹事長の谷垣氏が首相に反旗を翻すのも困難だ。首相は、余程のことがない限り次期総裁選を勝つ道が開けたことになる。

 首相にとって一粒で何度もおいしい「谷垣幹事長」。考え抜かれた妙案に、谷垣氏の側近はこうため息をついた。

 「今回の人事は、長期政権を築いた佐藤栄作級だ…」(水内茂幸/SANKEI EXPRESS

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