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【夜感都市】TOKYO NIGHT(28) 静かに解体待つ「聖地」
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二度と輝くことのない照明塔…国立競技場は50年の役目を終えて解体される=2014年8月29日、東京都新宿区霞ケ丘町(奈須稔撮影) 日が暮れてから神宮の杜(もり、明治神宮外苑)を歩いた。鬱蒼(うっそう)としげる木々の間から、国立競技場の威容が現れた。鉛色の空にそびえ立つ鋼鉄製の照明塔と、コンクリートの塊。隣接する神宮球場のナイター設備が照らし出していた。
国立競技場は10月10日、1964(昭和39)年の東京五輪の開会式から50年の節目を迎える。すでにその役目を終えて静かに建て替えのときを待つ。現在は閉鎖されて人影もないが、五輪開催を伝える当時のエンブレムも、聖火台も、コンクリートも、その存在感は衰えていなかった。
2020年東京オリンピック・パラリンピックのメーン会場となる「新国立競技場」は、前年の19年9月に日本で開催されるラグビー・ワールドカップに間に合うように建設される。世界中の建築家に呼びかけて国際デザイン・コンクールを開催、最優秀賞を獲得したロンドンを拠点に活躍するイラク出身の女性建築家、ザハ・ハディド氏の作品が採用された。ハディド氏の設計はまるでSF映画に登場する宇宙船のよう。しかし、当初デザインは巨大で景観破壊や建設費がかさむことから修正が加えられた。
先日、ヘリから国立競技場を空撮する機会があった。郊外を大規模に造成してメーン会場などの競技施設を集結させるのが最近の五輪施設計画の潮流であるが、東京五輪ではメーンスタジアムは、都心のビルや住宅街の中に建つ。新鮮かつ斬新に映るだろう。できれば、ハディド氏の当初デザインのまま建設してほしかったが…。
“聖地”国立の解体工事は今月末に始まる。
≪この景色 6年後には一変≫
見渡す限り雑草が生い茂る東京湾岸の埋め立て地。その先にそびえるレインボーブリッジや高層ビルの夜景が目に入り、そのギャップを感じる。
バレーボール会場となる有明アリーナ、自転車会場の有明ベロドローム、有明体操競技場など、有明一帯に五輪競技場が建設される。東京五輪では、37施設のうち21施設が、この有明や夢の島などの湾岸部に集中する。
「こんな状態で6年後に間に合うのか」。これまでロンドン五輪をはじめ夏冬6大会を取材した経験から言うと、答えは「たぶん大丈夫」だ。思えばいつの大会でも建設工事の遅れがニュースとなった。特に2004年のアテネ五輪の工事は遅れに遅れ、大会直前まで開催が危ぶまれた。競泳会場に至っては屋根が設置できないまま開幕した。だが競技が始まると世界新と五輪新が連発、「高速プール」と評価され、北島康介選手の2種目制覇など感動の中閉幕した。施設の不備を伝える報道はいつの間にか消えていたのだ。
一方で、競技施設が五輪後に“負の遺産”とならぬよう、恒久施設を減らすなどの工夫が必要だ。閉幕後の維持管理費の問題は、五輪開催地が抱える共通の悩みとも言える。
6年後、この雑草に覆われた土地に世界のトップアスリートが集まる。今はただ静かで心地よい潮風が、熱気に変わる。解体を待つ国立競技場を見上げたときと同様、ちょっと身が引き締まる思いがわき上がってきた。(写真・文:写真報道局 奈須稔/SANKEI EXPRESS)