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パラリンピック専用施設は不要 五輪と一体強化を 佐藤真海
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「いま、声をあげないと手遅れになってしまう。世論を少しでも巻き込まないと」。そんな思いがありました。3月末、ソチパラリンピックのメダリストと交流した後、ツイッターやフェイスブックで、パラリンピック専用の強化拠点を整備することに反対を表明しました。
「選手たちの声が届きますように。お金の無駄遣いをせず、使われるべきとことに使われますように」と。その声がどこまで届いたかはわかりませんが、その後、専用拠点は設けず、五輪選手の拠点である味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC、東京都北区)を共用する方針が決まりました。
専用拠点というと聞こえはいいですが、パラリンピックの隔離でしかなく、強化にとってもプラスになるとは思いませんでした。これは、決して独りよがりの考えではありません。実際、日本パラリンピアンズ協会(選手会)がまとめているアンケートでも、9割以上の選手が五輪の拠点との一体化を求めていたのです。
海外に目を移すと、パラリンピックの強豪である欧米諸国は、五輪と同様の強化体制が敷かれています。遠征で一緒になった海外選手からの話に、強化の大きなヒントがあると思うようになりました。
日本で当初、強化拠点の候補として上がっていたのは、国立障害者リハビリテーションセンター(埼玉県所沢市)。このセンターはあくまでリハビリ施設であり、アスリートの強化のための人材やノウハウを備えた場所ではないのです。
英国にパラリンピック発祥の地と呼ばれる場所があります。ストーク・マンデビル病院です。大学院時代の研究の一環でこの病院について調査し、休暇をとって視察にも訪れたのですが、そこでは、車いす生活を余儀なくされた人たちがリハビリの一環でスポーツに取り組んでいます。第二次世界大戦後に世界で最初にスタートし、いまなお大切な拠点となっています。ここでは、基本的なリハビリに加え、毎日のように車いすラグビーや卓球などさまざまなプログラムが用意され、自由に参加することができるのです。
英国でのこうした取り組みには、障害者を「Tax Payer(納税者)として社会に送り出す」という明確な目標があります。スポーツが早期の社会復帰を後押しする手段として活用され、ここをスタートにパラリンピックへのチャレンジを始める人も少なくありません。
ドイツには、「リハビリスポーツ」を医師の処方のもと、50回以内なら医療保険の対象で行うことができるという社会的なバックアップがあります。
障害のある人がスポーツに親しむ入り口-。この点で日本の環境はまだまだ途上です。
私が骨肉腫で右脚を切断したときも、社会に出るためのステップとなる場所や手段、情報が乏しく、ただ放り出されたという感じでした。病院は命を守るための最善の治療に努めてくれました。ただ、社会とつなぐための役割までは担っていません。手術の直後、パラリンピックの存在はおろか、義足で走れるという情報すらありませんでした。
自分の体験からも、社会復帰するまでの心身両面のリハビリの重要性を痛感しています。国立障害者リハビリテーションセンターのような拠点は、パラリンピック選手の強化ではなく、障害者の社会復帰を後押しし、その中からパラリンピックを目指す選手が生まれていく施設になるのが望ましいと考えます。
では、パラリンピックの強化はどのように行うべきか。
やはりそれは、欧米やオーストラリアのように、可能な限り五輪選手との練習拠点を共用することです。これから共用の方向で進んでいくNTCや国立スポーツ科学センター(JISS)は、最先端の医科学情報や設備、人材がそろっています。動作解析などの最先端の技術を、日本のパラリンピック界はまだまだうまく活用できていません。たとえば、義足の選び方や製作にも、客観的なデータはなく、アスリートや職人の感覚によるところが大きいのです。
そのため、失敗やけがのリスクも大きくなります。タイプが合わずに膝に炎症を起こすなど、体を痛めながら自分に合うものを探っている状況です。日本の高度な医科学的な見識を活用できれば、効率的により高いパフォーマンスを発揮でき、強豪国との差が開き始めている日本のパラリンピックの成績も2020年東京大会に向けて伸ばしていけるはずです。
同時に、現状では使途に制限がある強化費を、より柔軟に活用できるようにソフト面でも充実すべきだと思います。たとえば、強化合宿のための予算は、実戦で強化したい選手の海外遠征に使うことはできません。その場合、選手は自費で遠征に行かなければならないのが現状です。
パラリンピックの強化に目が向けられ、国の強化費予算が増えるのは良いことですが、有意義に使えなければ意味がありません。少なくとも莫大(ばくだい)なお金で専用の強化拠点を作る必要性はまったく感じません。
大きな改革が今後進んでいく中で、選手の声が届かずに物事が決まっていくことは避けなくてはなりません。現役だからこそ、見える部分もあります。だからこそ、これからもパラリンピック選手たちが主体的に発信を続けていければと思っています。私もまだまだ走って、跳んで、世界を回って、フィールドの外でも自分の考えを発信し続けます!(女子走り幅跳び選手 佐藤真海(まみ)/SANKEI EXPRESS)