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ずっと私の中に生き続けている 「ベルサイユのばら 11巻」 池田理代子さんインタビュー

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ずっと私の中に生き続けている 「ベルサイユのばら 11巻」 池田理代子さんインタビュー

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漫画家としてだけでなく声楽家としても活動する池田理代子さん。「全然エネルギッシュじゃないですよ。気が向いたらやっているだけ」=2014年9月18日、東京都港区(川口良介撮影)  【本の話をしよう】

 男装の麗人オスカルと、王妃マリー・アントワネットを軸にフランス革命を描いた少女漫画の不朽の名作『ベルサイユのばら』。連載終了から40年を経て新刊が刊行されるというニュースが今秋、出版界を揺るがした。金字塔を打ち立てつつなおも歩みを止めない池田理代子さん(66)に、“いま”と“これから”を尋ねた。

 今だから書けるせりふ

 「40年ぶりの新刊といわれても、書き手はそんなに気にしていないんです。私はいつも次のことしか考えていませんから」。記者をいなすように、穏やかに笑う。沸き立つ周囲を横目に、本人はいたってマイペースだ。

 新刊である11巻に収録されたのは、主人公オスカルをめぐる人々のその後や、過去を描いた4編。オスカルの幼なじみアンドレ、オスカルの婚約者候補だった貴公子ジェローデル、アントワネットの恋人フェルゼン、オスカルの部下アラン…。ファンが再会を願っていた懐かしいキャラクターが、新たな表情を見せてくれる。

 「3頭身のキャラクターは4コマ漫画『ベルばらKids』などで描いていましたが、この絵で描くのは20年ぶり。最初のうちは感覚を取り戻せずに戸惑いもしました。絵の出来が悪いのではと、自分で見たくないと思ってしまったぐらい(笑)。でも、描いているうちに、情熱的でまっすぐだった当時の自分を思い出すことができました」

 謙遜するが、流麗な絵柄は健在だ。さらに、新エピソードには、今だからこそ書けるせりふがあるという。例えば、オスカルの死後、革命の混乱を見届けることになるアランのセリフ。《…だが俺はそのとき予感していたのかもしれない 革命がまだまだその先も多くの人々の血を流さずにはいないだろうことを 歴史の名のもとに…人類は永遠に流血を繰り返さずにはいないだろうことを…》

 「若い頃は平和運動などにも関わっていましたが、今はその頃に訴えていた悲劇が現実になっている感じ。宇宙に行っても、人間は殺し合いを続けるのでは、とすら思う。シニカルですよね(笑)」

 「嫁入り道具に」とも

 今回の収録作は、昨年から今年にかけて雑誌「マーガレット」に掲載した作品に一部加筆したもの。新エピソードの執筆は、自分から編集部に申し出たという。「マーガレットが50周年を迎えて何かコメントか色紙を書いてくれないかと。せっかくだったらマンガを描きたいとお願いしたんです。いろいろ描きたいものが頭の中にたまっていたので」

 連載終了時から、続編執筆の意欲を持ち続けていた。「あの頃は『ここまで』と切られてしまったので。本当はナポレオンの死まで描いて、やっとフランス革命は終わる、という思いがありました」

 今回の新刊のエピソードも、ずっと心の中で温めていたものだ。「ずっと私の中にキャラクターたちが生き続けている。他にもまだ、描きたいキャラクターがいます。ナポレオンの帝政を生き抜いた(オスカルの妹分的キャラクター)ロザリーだとか…」

 東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで開催中の「わたしのマーガレット展」には、オスカルとアンドレの等身大立像が登場して展覧会の目玉となっている。世代を超えてファンを引きつける「ベルサイユのばら」。「連載当時から、『お嫁に行くとき持っていきます』というお便りをいただいていました。実際に、『母から読ませてもらった』という娘さん世代からの感想ももらって…。本当にうれしいですよね」

 何かあったら絶筆に

 女性でありながらも軍人としての生を貫いたオスカルに、自身を重ねる働く女性も多い。「私自身もすごくたたかれた世代ですから。子供を産んでいないことで、たたかれた。女性は結婚して、子供を産んでこそ一人前という風潮が強かった。今も、女性の社会進出を政府はうたっているけれど、おじさんたちの本音はあまり変わっていないんじゃないかな」

 今も、新たなエピソードを執筆中だ。「もう1巻? それまで生きてれば…(笑)。本当に明日死ぬかもしれない。とにかく書き終えたい。書き終えて初めてほっとできる。何かあったら絶筆として出してください(笑)」

 凛々しく、美しく。新たな歴史を刻み続ける。(文:塩塚夢/撮影:川口良介/SANKEI EXPRESS

 ■いけだ・りよこ 1947年、大阪生まれ。大学在学中から漫画を描き始め、1967年「バラ屋敷の少女」でデビュー。72年から『週刊マーガレット』に連載されたベストセラー「ベルサイユのばら」は宝塚歌劇団による舞台化、テレビアニメ化が相次いで社会現象に。80年には「オルフェウスの窓」で日本漫画家協会賞優秀賞受賞。95年、東京音楽大学声楽科に入学。現在、声楽家としても活躍中。

「ベルサイユのばら 11巻」(池田理代子 作/集英社、660円+税)

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