ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
科学
【ノーベル物理学賞】「夢の技術」実用化 暮らし変えた
更新
青色発光ダイオード(日亜化学工業提供) ノーベル物理学賞の授賞対象となった青色発光ダイオード(LED)は「20世紀中の実現は無理」とされた夢の技術だった。しかし、赤崎勇・名城大終身教授(85)と天野浩・名古屋大教授(54)が共同で基盤技術を開発し、米カリフォルニア大サンタバーバラ校の中村修二教授(60)が実用化に道を切り開いた。
LEDは1962年、米ゼネラル・エレクトリック社の研究員だったニック・ホロニアック氏(85)が発明した。電球とは違って半導体の中の電子が直接光に変わるので熱を出さず、エネルギー効率もいいのが最大の利点だ。
ただし、順調に開発が進んだのは緑色と赤色だけ。さまざまな色を自由自在に表現するには光の三原色が必要なため、残る青色を出すLEDの登場が待ち望まれていた。
赤崎氏は京都大卒業後、電機メーカーでテレビのブラウン管に使う化合物半導体の研究に携わり、名古屋大教授となった1981年、青色LED研究を本格的に開始した。
鍵は発光素子として結晶が必要になる素材に窒化ガリウムを選んだことだ。電気特性や頑丈さですぐれているが、肝心の結晶ができにくい性質だったため、当時しのぎを削っていた世界中の研究機関は敬遠し、セレン化亜鉛の研究が主流となっていた。
だが赤崎氏は、輝き具合で圧倒的なこの素材にこだわって試行錯誤を重ねた。最終的に、サファイアの基板に窒化アルミという別の素材を挟み、窒化ガリウムの結晶を成長させる方法の開発に成功。赤崎氏に師事していた天野氏が大学院生だった85年、高品質の窒化ガリウムの結晶を実際に作ることに成功した。赤崎氏は89年に国際学会で発表し、世界中の研究者から称賛を浴びた。
一方、日亜化学工業(徳島県)の研究者だった中村氏はこの年に、青色LEDの開発を目指して窒化ガリウムの研究を始めた。赤崎氏は窒化ガリウムの結晶化に成功したが、まだ実用的な品質は得られておらず、実用化は遠かった。そこで中村氏は赤崎氏の成果を基にしながら、さらに高品質な窒化ガリウム結晶の生成に取り組んだ。
従来の方法では、反応装置の中で、基板(サファイア)にアンモニアガスと水素に混ぜたガリウムを吹きつけ、基板上に薄膜をつくっていた。「もっと効率的な方法はないか」。模索の末、中村氏は基板の上から窒素ガスを、横からは有機金属ガリウムとアンモニアガスを流す方法を思いついた。
短期の米国留学で習得した技術に独自の改良を加えた「ツーフロー」と呼ばれる新しい結晶育成法で、実験してみると、2つの吹き出し口を使うことで、窒素ガリウム膜の結晶性は飛躍的に向上。「(青色LEDの実用化は)この新しい手法が決め手になったといって過言ではない」(中村氏)という。
93年には世界で初めて実用に耐える高輝度青色発光LEDの製品化に成功した。光の三原色がすべてそろったことで、あらゆる色の光を作ることができるようになり、携帯電話やスマートフォン、大型スクリーンなど画像表示装置の世界がぐんと拡大。LEDは世界中の人たちのライフスタイルを大きく変えた。(SANKEI EXPRESS)