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脳を透明にするセレンディピティ 大和田潔

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSの科学

脳を透明にするセレンディピティ 大和田潔

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 【青信号で今週も】

 独立行政法人理化学研究所は「成体の脳を透明化し、1細胞解像度で観察する新技術を開発」(2014年4月18日)と発表しました。生物にもともと存在する尿素に脳を浸して透明にするという偶然の発見、セレンディピティから研究が進んだとのことです。

 セレンディピティ(serendipity)とは、『セレンディップの3人の王子』という童話にちなんだものです。セレンディップは現在のスリランカ。王から旅を命じられた3人の王子たちは、ペルシアでラクダに逃げられた男に出会います。王子たちは、ラクダの特徴だけでなく運んでいた荷物の内容までことごとく言い当てたため、泥棒としてとらえられてしまいます。けれども、無罪が判明し、めでたしめでたしというお話です。

 王子たちはなぜ、「見たこともない逃げたラクダの特徴を知っていたのか」というのがお話の面白いところです。道の片側しか草が食べられていなくて、歩いた道にアリがたくさんいた…などの情報から、ラクダは片目しか見えず、ハチミツやバターを積んでいたことを見抜いたという種明かしです。こういった情報は、どの人も見ていたはずでした。注意深い観察眼をもった王子たちだけは、目の前の風景に意味を持つことができました。今回の脳を透明にする技術も、研究者たちの注意深い観察のおかげです。

 クラゲからGFPという蛍光物質を発見した下村脩(しもむら・おさむ)先生が、ノーベル化学賞を受賞されたのも、流し場に捨てた廃液が光ったことを見逃さなかったからです。抗がん剤のプラチナ製剤も、実験中に電極に使ったプラチナの回りの大腸菌への効果から偶然発見されたことを『知らずに飲んでいる薬の中身』(祥伝社新書)という本でご紹介しました。

 神経細胞がネットワークを組んで作り上げている脳を透明化すると、さまざまな利点があります。神経細胞の活動を光らせる試薬を脳に与えておくと、さざ波のように輝きが移動する様子が生きたまま観察されます。動画も公開されています。私たちの脳も、こういった活動のさざ波を繰り返していることでしょう。セレンディピティから始まった脳を可視化する技術は、人に深い感動と科学への理解を与えてくれます。(秋葉原駅クリニック院長 大和田潔/SANKEI EXPRESS

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