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【日本遊行-美の逍遥】其の十三(高台寺・京都市) 心に染みる 桃山文化の粋

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【日本遊行-美の逍遥】其の十三(高台寺・京都市) 心に染みる 桃山文化の粋

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臥龍池にかかる臥龍廊(がりゅうろう)。水面に映る月、秋の紅葉はいつにも増して、高台寺の魅力を伝えてくれる=2013年10月29日、京都市東山区・高台寺(井浦新さん撮影)  高台寺は豊臣秀吉の冥福を祈るために北政所(きたのまんどころ、ねね)が建てた寺。この秋、夜間特別拝観のライトアップを監修させていただくことになり、足を運ぶ機会が増えた。桃山時代の「絢爛(けんらん)」と「侘(わ)びさび」、2つの対極に位置する美意識を背景に、「悠久-光と陰-」というテーマで考えた。楽しみながらも気を引き締めて、準備を進めている最中だ。

 この地へ足を運ぶたびに、ねねの慈愛に満ちた存在感と、凝縮された桃山文化の粋が心に染みる。高台寺へつづく石畳のアプローチは「ねねの道」とも呼ばれ、踏みしめる足元からしみじみとした気持ちになる。山の斜面を利用した境内には、御堂や方丈、茶室などが凝縮、調和してたたずむ。

 最も心動かされたのは、自然を取り込んだ庭のつくりだ。自然物の力を最大限に生かし、借景を利用しながら、四季折々の完璧なシーンを生む。中央には偃月池(えんげつち)と臥龍池(がりゅういけ)。明鏡止水(めいきょうしすい)、風がないときは、新緑や紅葉を鮮やかに映し出す。夜は月が美しい。ねねが秀吉をしのび、月を眺めた観月台は、直接月を見るよりも、池に映った月を愛でるためのもの。粋そのものである。

 小堀遠州(こぼりえんしゅう)作の「鶴亀の庭」が広がり、秀吉好みの大降りの石が大胆に設置されている。遊び心に満ちた意匠(いしょう)の隅々に、自然を愛でる工夫が見てとれる。

 竹林にも、月の通り道が意識されていて驚いた。同時に、風が吹き抜けていく感触を肌で感じ取ることもできる。春先にみなぎる生命力、夏は暑さをしのぎ、秋は葉が霧雨のように降り、冬は寒空に竹色が際立つ。どの季節にも楽しみが絶えることがない。

 方丈の白砂の庭は「波心庭(はしんてい)」と呼ばれ、波紋が共鳴しあう。そこに枝垂桜(しだれざくら)が2本。少ないからこそ際立つ美しさ。威厳とは異なる、女性的な静かさ、やさしさにあふれている。

 ≪時を超え伝わる偉人たちの息遣い≫

 斜面の上、秀吉の御霊を祀る霊屋(おたまや)へ。ねねが参拝のために毎日歩いた臥龍廊(がりゅうろう)は、龍の背に似ている。霊屋の厨子(ずし)の左右に、今では秀吉とねねの座像が仲良く並んでいてほほ笑ましい。須弥壇(しゅみだん)や厨子には高台寺蒔絵(まきえ)が施されており、その姿は荘厳かつ繊細で、はかなささえ感じさせる。

 秀吉の辞世の句「露と落ち 露と消えにし 我が身かな 浪速の ことも 夢のまた夢」という、夢の中で夢を見ているような人生が、蒔絵の秋草の姿に重なる。狩野光信による障壁画が、互いを引き立て合う。

 僕が個人的に一番好きな場所が傘亭(かさてい)だ。高台寺には複数の茶室がある。傘亭は千利休の意匠による茶室で、質素な外観は、茅葺(かやぶき)屋根の田舎民家のよう。

 中に入ると、竹と丸木が放射状に組まれた構造が面白く、竪穴式住居みたいでホッとする。茶室の緊張感はなく、解放感や温かさに包まれる。一畳の上段があり、後藤典生住職のお話によれば、そこに秀吉が座っていたそうだ。金襴豪華で派手好きなイメージのある秀吉が、一方でこのように素朴で質素な場所を楽しんでいたかと思うと、思わず笑みがこぼれる。

 もう一つ、土間廊下でつながった時雨亭(しぐれてい)へ。茅葺屋根の入母屋造(いりもやづくり)、これまた珍しい2階建ての茶室である。下が待合になっており、三方の窓が開閉して眺めがよい。どちらも一般的な茶室とは赴きが異なり、その斬新さが茶室の概念を覆してくれる。

 ねねは芸術文化を愛し、敵味方を問わず多くの武将たちに慕われた。お忍びの訪問も後を絶たず、武将たちはねねに頭が上がらなかったそうだ。

 歴史の奧に広がる、桃山時代の成熟した美意識。秀吉やねね、利休や遠州を含めた偉人たちの息遣いが、400年の時を越えて鮮烈に伝わる貴重な場所だ。(写真・文:俳優・クリエイター 井浦新/SANKEI EXPRESS

 ■いうら・あらた 1974年、東京都生まれ。代表作に第65回カンヌ国際映画祭招待作品「11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち」(若松孝二監督)など。ヤン・ヨンヒ監督の「かぞくのくに」では第55回ブルーリボン賞助演男優賞を受賞。

 2012年12月、箱根彫刻の森美術館にて写真展「井浦新 空は暁、黄昏れ展ー太陽と月のはざまでー」を開催するなど多彩な才能を発揮。NHK「日曜美術館」の司会を担当。13年4月からは京都国立博物館文化大使に就任した。一般社団法人匠文化機構を立ち上げるなど、日本の伝統文化を伝える活動を行っている。

 【ガイド】

 井浦新(いうら・あらた)さんが監修した高台寺秋の夜間特別拝観におけるライトアップ「悠久-光と陰-」は2014年10月24日~12月14日(日)、午後5時~午後10時(受付は午後9時30分まで)。「悠久」をテーマに庭だけでなく高台寺の敷地内すべてに光と陰のインスタレーションを施す。大人600円、中高生250円、小学生以下無料。問い合わせは(電)075・561・9966高台寺まで。

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