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福島で事故と向き合う(上) 原子力専攻 自分なりの「答え」探す

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福島で事故と向き合う(上) 原子力専攻 自分なりの「答え」探す

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川内村の遠藤町長の話に聞き入る参加者。最前線で闘ってきた人の話に衝撃を受けていた=2014(平成26)年8月28日、福島県双葉郡川内村(東京都市大学_有志学生記者撮影)  【Campus新聞】

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から3年半以上が経過した。東京都市大学大学院で原子力を専攻する犬飼健一朗さん(24)は事故直後に福島を訪れ、原子力を学ぶ意味について考えたという。後輩たちにも同じように事故と向き合ってほしいと思い、東京都市大学や日本原子力産業協会(JAIF)の協力を得て、総勢27人で再び福島を訪ねた。被災地のほか、福島第2原発も見学。福島はいまどうなっているのか。それを見た学生たちは何を感じたのか。犬飼さんと工学部原子力安全工学科3年の亀子湧生さん(22)がリポートする。

 □今週のリポーター 東京都市大学 有志学生記者 犬飼健一朗さん、亀子湧生さん

 「福島を感じ、原子力について自分なりに何か答えを見つけてほしい」。今回企画した福島訪問のテーマだ。その答えが、原発の再稼働でも、原発の全基廃炉でも、それは構わない。震災から約3カ月後のゴールデンウイークに福島を訪れ、自分の中でたくさんの変化があった。

 東京都市大学の支援とJAIFの協力を得て、1~4年生の大学生20人と大学院生5人、大学とJAIFの各1人の計27人で福島へ向かった。

 まず訪れたのは富岡町。バスの中で、今回の企画のために町役場で作成してくれた町の歴史と現在の状況についての冊子が配られ、説明を受ける。一人一人に放射線量計が渡され、学生らにも原発事故の被災地に入るという心構えができたようだ。

 バスの車窓から、大量の黒い袋が見えた。行き場のない除染廃棄物が入った袋だ。テレビではない、実際の風景に学部生の多くは言葉を失った。

 私は震災直後に訪れたあの時と大きく変わらない風景に驚いた。いまだに建物の中に車やポストが放置されたまま。3年半という時間について考えさせられた。

 違うのは放射線量だけ

 「帰宅困難地域」との境界のバリケードまで来た。帰宅困難地域とは除染の手が一切入っていない地域であり、道路も一切直っていないという。しかし、バリケードの向こうとこちら側で見える景色に大きな違いはなかった。あるのは放射線量の違いだけ。そのことを理解してもらうため、大学生にバリケード付近と少し離れた場所で放射線を測定してもらった。

 午後3時になると、「帰宅時間となりました。作業を中断し帰宅しましょう」という町内放送が流れた。今いる場所が、どういう場所なのかを改めて感じさせられた。

 次に向かったのは川内村。遠藤雄幸村長自らが、川内村の現状や思いについて話してくれた。遠藤村長は「原発事故によって森が汚れ仕事ができなくなった、というような分かりやすい問題ではない。代々の歴史を止め、生き方やプライドまでをも失わせた人生的な問題である」と語り始めた。

 事故後の情報入手、政府との連絡、避難者の受け入れ…。小さな村が処理するには大きすぎる難題の連続だったことが伝わってきた。新聞やテレビを通して少しは分かっているつもりだったが、最前線で闘っていた人の話を聞くと、現場の混乱、責任の重圧、判断の重みなどすべてが想像以上だった。

 前向きな村長の言葉

 一方で、「選択・判断・自立」を復興のキーワードに掲げ、「前向きに進もうとしている」という気概も伝わってきた。「東電や国はお金をくれるけど、実際にそれらを使い動くのは、われわれである」と、遠藤村長は語った。森林除染についての費用対効果の問題でも「国民の税金を使っているのだから、胸の張れる使い道をしなくてはならない。胸は下向きでは張れない。前向きでなくてはならない」と力強かった。

 そんな村長の言葉に、被災地のイメージが変わった学生も多かったのではないだろうか。

 そして、「将来、技術者になるであろう君たちへ」と題して、「客観的な事実を示し、判断の根拠を提示する、そんな技術者になってほしい」とのメッセージももらった。

 そんな激励を受け、多くの学生が、技術者とはどうあるべきなのかという道標を見つけたのではないだろうか。

 東京都市大学OBで川内村にある福島大学うつくしまふくしま未来支援センターサテライトで働く西川珠美さんの話も聞いた。放射線についての講習会や講座などを積極的に行っている西川さんは、「住民が放射線について学んでいく姿など、現場でしか見えないことがある」と話してくれた。

 そして、「川内村にいて、ボランティアの学生を多く見るが、原子力を学んでいるという学生にはなかなか会わない。ぜひ現場に出向きたくさんのことを学んでほしい」と、西川さんは言う。その言葉に、自分に何ができるのか自問自答した学生も多かったはずだ。(今週のリポーター:東京都市大学 有志学生記者 犬飼健一朗、亀子湧生/SANKEI EXPRESS

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