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【日銀追加緩和】「脱デフレへ正念場」 黒田総裁、物価上昇率目標達成へ「賭け」

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【日銀追加緩和】「脱デフレへ正念場」 黒田総裁、物価上昇率目標達成へ「賭け」

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記者会見でボードを指しながら追加金融緩和について説明する日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁=2014年10月31日、東京都中央区日本橋本石町の日本銀行本店(早坂洋祐撮影)  日銀は31日、金融政策決定会合を開き、市場への資金供給量を現行の年間60~70兆円から80兆円に拡大する追加の金融緩和を決めた。4月の消費税率引き上げから物価上昇率が伸び悩む中、黒田東彦(はるひこ)総裁(70)は「デフレ脱却に向けたプロセスにおいて、今がまさに正念場」と述べ、追加緩和の意義を強調した。

 追加緩和は、長期国債の購入を年間50兆円から80兆円に増やすことが柱。このほか、株価に連動する上場投資信託(ETF)を1兆円から3兆円に、不動産投資信託(Jリート)も現在の約3倍にあたる約900億円にそれぞれ増やす。

 日銀は増税前の駆け込み需要の反動減の影響が想定以上に長引いていることに加え、原油価格の大幅な下落が物価の下押し圧力になっていると判断。その上で、黒田総裁は「デフレマインドに戻るとこれまでの成果が減ってしまう」と懸念を表明。これらのリスクが顕在化するのを未然に防ぐため、追加緩和に踏み切った。

 追加緩和の規模について、黒田総裁は「相当思い切った拡大」と述べ、デフレ脱却を後押しする効果に期待感を示した。

 日銀は経済・物価情勢の展望(展望リポート)を併せて発表。それによると、2014年度の経済成長率見通しを7月時点の1.0%から0.5%に、15年度の物価上昇率見通しを1.9%から1.7%にそれぞれ引き下げた。

 ただ、原油安が物価を押し下げる効果は15年度後半には失われるとしており、「15年度を中心とする期間に2%程度の物価安定目標を実現する」との見通しは維持した。

 市場は追加緩和を好感し、平均株価は急騰。日経平均株価の終値は前日比755円56銭高の1万6413円76銭と約7年ぶりの高値をつけた。外国為替市場では円安が進み、一時、約6年10カ月ぶりの円安ドル高水準となる1ドル=111円台をつけた。

 ≪黒田総裁 物価上昇率目標達成へ「賭け」≫

 日銀が予想外の追加の金融緩和策を打ち出したのは、景気回復への足取りが鈍る中で「2年で2%」の物価上昇率目標を何としても達成するという黒田総裁の強い決意表明だ。政府の消費税再増税の判断を後押しする狙いもあるとみられる。だが、追加緩和して物価目標を達成できなければ責任論が浮上するのは必至。黒田総裁にとっては「背水の陣」となる。

 「駆け込み需要の反動や原油価格の下落が長引くとデフレマインドの転換が遅れる可能性もある。そのリスクを未然に防ぎ、物価目標実現のためにできることは何でもやる」

 黒田総裁は31日の記者会見で、座席の前に追加緩和の内容を図解したボードを立て、身ぶり手ぶりを交えてそう説明した。

 黒田総裁は就任直後の昨年4月、国債などを買い入れて、市場に大量のお金を流す大規模金融緩和を始めた。その結果、円安ドル高が進み、株価も上昇。アベノミクスの“第1の矢”は見事に成功し、市場の信認を得た。だが、このところ経済指標は弱含んでいる。31日公表の9月の経済指標では、有効求人倍率が3年4カ月ぶりに悪化したほか、1世帯当たりの家計消費支出が6カ月連続のマイナス。自営業などを除くサラリーマン世帯の実収入も12カ月連続で減少した。総務省は「消費税増税による実質賃金の低下が原因」と分析した。

 増税分を除く物価上昇率(生鮮食品除く)も今年4月に前年比1.5%に上昇したが、その後は増税後の需要減に加え、原油安などが響き物価の伸びが鈍化。9月は1.0%ちょうどと1%割れも危ぶまれる。

 日銀は、今年度後半から2%に向けて回復していくと主張。黒田総裁も7月の記者会見で「1%を割る可能性はない」と自信満々で語っていたが、1%を切る事態に追い込まれれば、黒田総裁の発言は信頼されなくなる。

 最近の景気判断をめぐっても下方修正に踏み切った政府と強気を貫く日銀の乖離(かいり)が広がっていた。明治安田生命保険の小玉祐一チーフエコノミストは、このタイミングでの追加緩和について、「黒田総裁のこれまでの強気スタンスが限界になったということ」と分析した。今回の追加緩和が計9人の政策委員のうち賛成が5人、反対が4人という際どい票差での可決と、委員間でも判断は揺らいだ。

 ただ、追加緩和で再び市場に信認を得て、市場の好転が続けば、企業業績が改善し、賃金が増える経済の好循環につながる。安倍晋三首相(60)は、年末に消費税率を8%から10%に引き上げる再増税に踏み切るべきか判断するが、その追い風ともなり得る。

 麻生太郎財務相(74)はこの日、報道陣の取材に対し、「日本の経済を後押しする力を発揮する」と追加緩和を歓迎。SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「追加緩和で円安株高が加速すれば、再増税容認の空気が醸成されていくのではないか」と分析する。黒田氏の“賭け”で日本経済が一気に明るい方向に向かうか。まずは今後の市場動向に注目が集まる。(SANKEI EXPRESS

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