ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
社会
「みんながみんなを支える社会」へ 組織横断チームで課題探る
更新
日本財団の職員が組織横断で参加して行われ勉強会。模造紙にステークホルダーと成果を書き込み、プロジェクトをブラッシュアップしていく=2014年10月3日(日本財団撮影)
少子高齢化が急速に進む日本には、ニートや引きこもり、孤独死といった多様で複雑な問題が山積している。社会やコミュニティーのあり方が激変し、いたるところにさまざまなゆがみが生じているが、国や自治体による従来型の行政サービスでは対処できない状況に不安を抱える人は少なくない。
日本財団では組織横断でチームを編成し、多角的な視点から社会課題を発掘し、その解決のためのプロジェクトを提案しようと、職員が企画案を持ち寄り、議論を重ねている。その取り組みを紹介したい。
ファンドレイジングチームの長谷川隆治が開催した勉強会。参加した職員の思いはさまざまだ。「ママの笑顔を増やすプロジェクト」に取り組む森啓子は「企画がしっかりしていても、多くの人に知ってもらわなければ発展しない」と、キャンペーン拡大のアイデアを探すため参加した。
奨学制度の創設を目指す橋本朋幸は、ニュースを見て児童養護施設の子供の貧困を知った。「自分に責任がないのに、ハンディを背負って生きていかなければならない」と意欲を示す。
勉強会の講師には、NPOを対象にプロジェクトの企画や運営ノウハウを提供しているサービスグラントの嵯峨生馬代表を招いた。模造紙に想定されるステークホルダー(利害関係者)を書き出し、プロジェクトを通じて得られる成果を検証した。この過程を繰り返すことで見えなかった問題を洗い出し、プロジェクトをブラッシュアップするのが狙いだ。
キャンペーンを広げるには「人気キャラクターやタレントの起用も考えないと」と森は思いを巡らす。活動資金を得るため、「協賛企業も獲得していかなければ」と、思い浮かんだステークホルダーが大きな模造紙を埋めていく。
NPO法人「難病の子どもとその家族への夢を」代表の大住力氏も長谷川に誘われて参加。大住氏は難病の子供とその家族が交流できる場所を作ろうと、「Hope & Wish Village」構想に取り組んでいる。
「一番のステークホルダーは子供だよね」「親じゃないですか」「産んだ親がいないと…」。意見が飛び交う。さまざまなケースを想定し、問題をあぶり出しながら、解決策を考える。視点が違えば、解決までのストーリーも変わってくる。一人で考えるのではなく、職場や経験の異なる人が意見を寄せ合うことで新たなアイデアが生まれ、プロジェクトが磨かれていくのだ。
講師の嵯峨氏は「プロジェクトモデルを通じていかに成果が得られるかを考えることが重要」と指摘する。「企業は利益を上げることだけ考えればよいが、NPOは『誰のために』というターゲットと、どんな成果をもたらすかを考えなければならない」と、その難しさを語る。
ターゲットと成果を設定した後は、プロジェクト提案者と参加者がペアとなり、ロールプレーイングで起こり得るであろう場面を想定、参加者はステークホルダーになったつもりで、提案者と議論する。見えなかった問題点が次々と浮かび上がり、参加者の質問にしどろもどろになったり、ターゲットと成果の間にズレが生じたりする。「課題が見えてきたのが大きな収穫」と嵯峨氏。プロジェクトを開始するときには実際のステークホルダーの意見を聞きながら、議論を重ねて推進していくことになる。
目の前の事象だけにとらわれていては、目の前の問題は解決できても、根本的な問題解決にはつながらない。社会に生じたゆがみに対応するためには、NPOやボランティアといった枠組みから一歩踏み出し、「官と民」、「民と民」といった新しい形、すなわち「みんながみんなを支える社会」の構築が急務となってくる。
望まない妊娠により生まれた子供を施設ではなく家庭で育てる特別養子縁組、刑務所から出所した若者の更生支援、休眠預金の民間活用による弱者支援…。NPOやボランティアだけでなく、市民や企業、さらには国や行政をも巻き込み、ソーシャルイノベーションを起こす事業が育ちつつある。(日本財団 コミュニケーション部 福田英夫/SANKEI EXPRESS)