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文楽の魅力、知らないのはもったいない 全国巡回プロジェクト始動
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8月27日に六本木ヒルズで開かれた「にっぽん文楽」のプレビューイベント=2014年(日本財団撮影)
日本が世界に誇る伝統芸能の一つに「人形浄瑠璃・文楽」がある。海外公演での人気は絶大で、2013年のマドリード、ローマ、パリの興行では、「日本の人形劇は他に類をみないほど素晴らしい」と、行く先々で人々を魅了したという。一方で、外国人から文楽の魅力について尋ねられたら、一体どのくらいの日本人が自信を持って語れるだろうか。一度も見たことがないという人も少なくないだろう。
文楽は、ユネスコの無形文化遺産にも登録されている日本の宝である。日本財団は、その魅力をもっと国内で知ってもらおうと、新たなプロジェクトを始動させた。その名は「にっぽん文楽」。8月27日に、東京の六本木ヒルズでプレス向けのプレビューイベントが行われ、プロジェクトの概要が発表された。約1億円をかけて製作される総ひのき造りの本格的な移動式組み立て舞台が、20年の東京五輪まで全国各地を回る計画だ。「文楽を見たことのない人も、ファンの人も、その魅力を発見する機会になるに違いない」と関係者の期待は大きい。
文楽というと「大阪の文化」というイメージが強いかもしれないが、人形浄瑠璃は日本全国にあり、特に四国・阿波地方に多く残る。
浄瑠璃を語る「太夫」、伴奏する「三味線」、巧みに人形を操る「人形遣い」の三業が一体となって一つの世界をつくりだす文楽は、およそ400年の歴史を誇る。江戸時代前期に100以上の作品を残した近松門左衛門と、義太夫節という独特の語りを生みだした竹本義太夫との出会いによって文楽は絶大な人気を博した。その後、盛衰を繰り返したが、幕末に淡路の植村文楽軒により大阪に文楽座が設立され、最も中心的な存在となったことから、文楽という呼称が一般に広く知られるようになった。
一体の人形を「主遣い」、「左遣い」、「足遣い」の3人で操ることで人間以上に人間らしいといわれるほどの繊細な表現を可能にし、世界の人形劇の中でもひときわ高い芸術性を持つ。
日本財団の笹川陽平会長は、プロジェクトをスタートさせるにあたり、「世界でも突出した技術、表現力をもつ文楽の魅力を私たち日本人が知らないのはもったいない」と、その狙いを語った。
国立劇場(東京)や国立文楽劇場(大阪)での上演が多く、「格式が高い」というイメージがあるからか、若い人には「ハードルが高い」との印象を与えているようだ。
プロジェクトのプロデューサー、中村雅之氏は「もとは江戸初期に大阪の町人文化の中で育まれ、小屋掛けと呼ばれる仮設の劇場で上演される庶民の娯楽だった。江戸時代の絵図によると、観客は青空の下でゴザを敷き、飲食も自由という開放的な空間の中でくつろぎながら楽しんでいたことがわかる。こうした空間を再現することで、娯楽としての文楽に立ち返り、改めて価値を再認識してもらいたい」と、コンセプトを語った。
日本の伝統工法を駆使し製作される本格的な移動式組み立て舞台が、六本木ヒルズのヒルズアリーナに登場するのは15年3月。上演時間は70分を予定している。場内は飲食自由で特製弁当も限定販売される。もちろん、持ち込みも可能だ。上演前には、著名文化人が日替わりで文楽の楽しみ方を語るプレトーク「My文楽」も開かれ、文楽に初めて触れる人には打って付けだ。
人形遣いの桐竹勘十郎さんは「買い物や食事に来た若い人が、ちょっとのぞいてみようと足を運んでくれるのが楽しみ」と期待を寄せている。
東京でも常に最先端の街であり続ける六本木で、突如江戸時代にタイムスリップしたかのような感覚に浸りながら文楽を楽しむことができる。こんなにぜいたくなことはないだろう。ぜひとも、自分なりの楽しみ方で、文楽の魅力を見つけてほしい。(日本財団 公益・ボランティア支援グループ 枡方(ますかた)瑞恵/SANKEI EXPRESS)