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北九州市・藍島の「さくらねこ」 耳の形は見守りの証し
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「ニャニャニャ…」。なにやら内緒話?_藍島隧道(あいのしまずいどう)付近で見かけた仲良しの2匹=2014年10月29日、福岡県北九州市小倉北区の藍島(尾崎修二撮影) 「さくらねこ」と呼ばれるネコがいるのをご存じだろうか。耳をV字にカットされ、まるでサクラの花びらのような耳になっネコたちをこう呼んでいる。
本州と九州との間の関門海峡の北西に浮かぶ藍島(あいのしま、北九州市小倉北区)。ここに100匹以上のさくらねこが住んでいる。小倉港(小倉北区)の桟橋から連絡船で35分、周囲わずか13キロの小さな島だ。
不妊・去勢の手術を施された印として耳をさくらの形にカットするのだが、獣医によると「麻酔の効いている間に処置するのでネコにとってダメージは少ない」という。
昨年11月、TNRと呼ばれる、野良ネコを捕獲(Trap)して不妊・去勢手術(Neuter)を施し、元の生活場所に戻す(Return)活動が藍島で始まった。
“猫島”として海外メディアなどに取り上げられて外国人を含む観光客が激増した結果、餌の袋や缶が散乱するなど、一部の島民にとってネコが厄介ごとの元凶になってしまった。やがて、餌不足などのため痩せ細り病気がちなネコが多く見られるようになった。
状況を危惧した来島者によってさまざまな支援の動きがあったが、現在はフェースブックのコミュニティー「藍島の猫見守り隊」が島のネコたちの大きな支えになっている。この団体が、島内の民家を訪ねて協力を仰ぎ、餌やりなどのマナー順守を促すポスターを作成・掲示した。
その甲斐あってマナーは向上、次のステップとして始まったのが「今ここに生きている猫たちが嫌われ者にならずに暮らせるように」という思いを込めた活動だ。藍島にいるすべてのネコの数は把握されていないが、地域の協力のもと、これまでに114匹のネコに手術が施されたことが確認されている。
≪奔走する人間 尻目にのんびり≫
「地域の方々のご尽力と、励ましてくださった皆様のおかげで、ここまで来られました。私一人の思いではどうすることもできませんでした、本当に感謝です」と「藍島(あいのしま)の猫見守り隊」のメンバーは話す。
藍島でネコの“世話人”として活動してきた島民の女性は「ネコも犬も、好きでも嫌いでもない。でもね、生まれてきた命をむざむざ病気とかで死なせるのは嫌なのよ」と話す。
「これが“成功”で“最高”だとは思わないけれど、なにもしなければ“最悪”だったんじゃないの」この一言に、島民の間でも賛否両論があったことがうかがえる。取材時にもTNRを否定する声を耳にした。確かに子ネコが見られないのは、ネコ好きには寂しいことなのかもしれない。
それでも現在、個体数をコントロールされた藍島のネコたちは、一代限りの“猫生(にゃんせい)”を、穏やかに過ごしている。同様の問題を抱える各地の“猫島”にも大いに参考になるはずだ。
10月中旬、個人宅の玄関前にキャリーバッグに詰められたネコが置き去りにされるという出来事があった。添えられた手紙には、飼い主がネコアレルギーを発症したので引き取ってほしいと記されていた。飼いネコが先住の野良ネコに混じって幸せに生きていけるはずもない。島民も「ネコ捨て場じゃない」とため息をつく。
小倉港の渡船待合所と藍島の数カ所には「動物の遺棄・虐待は犯罪です」と書かれたポスターが掲示された。
人としての常識を、このような形で注意喚起しなくてはならないのか…やるせない思いがこみ上げる。それでも藍島のネコを見守りたい。訪れた人がマナーを守って「さくらねこ」との触れ合いを楽しむことができれば…そう願ってやまない。(写真・文:写真報道局 尾崎修二/SANKEI EXPRESS)
活動に関する詳細はフェイスブックのコミュニティー「藍島の猫見守り隊」で。