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【はやぶさ2】打ち上げ成功 地中の物質採取 生命の起源探る

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【はやぶさ2】打ち上げ成功 地中の物質採取 生命の起源探る

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パブリックビューイングで小惑星探査機「はやぶさ2」打ち上げの瞬間を見守る宇宙ファンら=2014年12月3日午後、東京都文京区(野村成次撮影)  小惑星探査機「はやぶさ2」が3日、6年間の旅に出発した。目的地は初代はやぶさよりも原始的な小惑星。太古の状態をとどめた地下の物質を持ち帰り、生命の起源や太陽系の歴史に迫る手掛かりを探る。

 太陽系が誕生したのは四十数億年前。地球などの大きな天体は、多数の小天体が落下した際の衝突エネルギーで高温になり、地表は溶けてマグマで覆われたため、誕生当時の状態は失われている。

 これに対し、惑星になり損ねた小惑星はマグマで覆われたことがなく、太陽系初期の物質がほぼそのままの状態で残っている。いわばタイムカプセルだ。

 初代はやぶさが訪れた「イトカワ」は岩石だけでできた小惑星だったが、今回の「1999JU3」はより原始的なタイプで、有機物や水を含むと考えられている。直径約900メートルで、サトイモのような形をしているらしい。

 生命の材料であるアミノ酸などの有機物は、原始地球に多数の小惑星や隕石(いんせき)が落下したことで届いたとされるが、よく分かっていない。採取した有機物を調べれば、その手掛かりが見つかるかもしれない。

 アミノ酸は原子の構成が同じでも、「右手」と「左手」のように形が異なる立体構造が存在する。生物をつくるアミノ酸は、ほとんどが「左手型」だ。小惑星由来のアミノ酸も「左手型」が多ければ、生命の材料が宇宙から届いた可能性が高まる。

 地球の海水も一部は小惑星によって運ばれたとみられる。水分子をつくる酸素や水素の同位体比が地球と小惑星で一致すれば、有力な状況証拠になる。

 科学研究を統括する名古屋大の渡辺誠一郎教授(惑星形成論)は「地球がどのようにして命を育む星になったのかを理解するヒントが得られる」と話す。

 また、採取した物質に含まれる放射性元素の年代測定により、小惑星の衝突時期などを特定すれば太陽系の歴史の解明に役立つ。

 初代が失敗した探査ロボットの着陸も目指す。重力が小さい小惑星では、車輪を使うと跳ね上がって走行できない。このため東北大などが開発したロボットは、内蔵する重りを動かすなどの方法で移動を試みる。成功すれば小天体での移動は史上初となる。

 ≪「日陰の領域こそ面白い」 JAXAはやぶさ2プロジェクトマネージャ 国中均さん≫

 「たった600キロの重さの小舟が大海原に向かった。厳しい運用が待ち受けている」

 心血を注いだ小惑星探査機「はやぶさ2」が旅立った。打ち上げ後の会見では緊張した様子で言葉をつなぎ、安堵(あんど)の表情はなかった。

 初代はやぶさで「イオンエンジン」の開発を担当。燃料ガスをイオン化して噴射する心臓部だが、故障で帰還が危うくなった。その反省を生かしてエンジンを改良し、後継機の指揮を執る。

 「技術を洗練し、優れたものができた。ただ、成功は約束されてはいない」

 子供の頃は飛行機に憧れた。夢は宇宙へと広がり「人工衛星を飛ばしたい」と京都大工学部へ。燃費に優れるが実用化の見通しが立たないイオンエンジンの存在を知り、「日陰の領域だからこそ、研究課題が山ほどある。面白そうだ」とのめり込んだ。

 文部省宇宙科学研究所(現JAXA)で独自方式の開発を目指したが、成果はさっぱり。周囲から「穀潰し」と酷評され、怒りを原動力に変えた。苦難の末、これで最後と決めた実験で優れた性能を引き出し、実用化の壁だった耐久性の課題を克服した。

 「生き馬の目を抜く」が座右の銘。「隙間でも得意な領域を見つけ、誰よりも先に成果を上げたい」。小惑星探査で世界の先頭に立ったが、米国も再来年に探査機を打ち上げるなど追い上げは激しい。

 「慎重に、かつ挑戦的に仕事をしていく」。6年後の帰還を目指し、気を抜けない日々が始まった。(草下(くさか)健夫/SANKEI EXPRESS

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