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露・ウクライナ プリマが絆 慈善公演 「戦時下」の名門バレエ学校を支援
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ウクライナの若いダンサーたちを支援するチャリティー公演が開催されたモスクワのボリショイ劇場=2014年9月19日、ロシア・首都モスクワ(ロイター) バレエ界最高峰の舞台の一つ、ロシア・モスクワのボリショイ劇場で7日夜、世界的なバレエダンサーたちが集まり、戦下のウクライナの若手ダンサーを支援するチャリティー公演を開催した。今でこそ、ロシアとウクライナは敵国同士のようになっているが、元々は言語も文化も近い兄弟国。参加したダンサーたちは、ひたすら平和を願って満員の観客たちの前で渾身の舞いを披露した。
公演は「国境なきバレエ」と銘打たれ、ボリショイ・バレエ団の著名プリマバレリーナ、スベトラーナ・ザハロワさん(35)が発起人となって開催された。ウクライナ出身のザハロワさんは、今年2月のソチ冬季五輪開会式のアトラクションでプリマを演じたことでも知られる、ボリショイのエースだ。
具体的な支援策は、公演の売上金全額を、ザハロワさんの母校でもあるウクライナ国立キエフ・バレエ学校に寄付するというもの。キエフ・バレエ学校は、旧ソ連時代にはボリショイ、キーロフと並び三大バレエ団と称されたキエフ・バレエ団への人材輩出源となっている名門だが、経済的苦境で過去30年間予算を削られ続け、今では劣化した屋根や窓の取り替えさえできないという。さらにウクライナ東部で政府軍と親ロシア派の戦闘が続く中、財政援助は一層細り、若い生徒たちは極寒下の劣悪な環境での稽古を余儀なくされている。
ザハロワさんはフランス通信(AFP)に対し、「どこの国に住んでいようとも、子供たちを支援することが必要なの。支援しようという考えが浮んだ時から、もう戻れないと思って仲間に声をかけた」と公演の意義を強調した。参加したダンサーの多くは、無論ロシア人だ。ボリショイ・バレエ団でプリンシパルを務めた後、昨年、英国ロイヤル・バレエ団に移籍したナタリア・オシポワさん(28)は、「出演を断る理由なんて何もなかった。冬の寒い稽古場での辛さを思ったら、協力してあげなくてはいけないと確信した」と語った。
公演は2部構成で、「白鳥の湖」「ロミオとジュリエット」など有名な5演目の名場面をいくつも披露するという趣向で行われ、1万1000ドル(約130万円)相当のVIPボックス席まで含めてすべてチケットは完売した。だが、ロシア通貨のルーブルが急落したため、当初目標にした30万ドル(約3600万円)の半分にも届かない見通しという。
キエフからは感謝の声が上がっている。キエフ・バレエ団でソリストを務める一方、キエフ・バレエ学校で芸術監督の要職にある寺田宜弘(のぶひろ)さん(38)は「スベトラーナたちには、感謝してもし切れない。子供たちは勇気づけられ、世界に通用するトレーニングが維持できる」と話した。
本来なら敵国同士であるはずもない“兄弟”の絆を、バレエが気づかせてくれた。(SANKEI EXPRESS)