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絵柄も内容も 唯一無二の世界観 「青池保子 華麗なる原画の世界 ~エロイカからファルコまで~」

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絵柄も内容も 唯一無二の世界観 「青池保子 華麗なる原画の世界 ~エロイカからファルコまで~」

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「エロイカより愛をこめて」(提供写真)。(C)青池保子/秋田書店  【アートクルーズ】

 「エロイカより愛をこめて」「イブの息子たち」「アルカサル-王城-」「修道士ファルコ」…。美形の男たちがおりなすアクションコメディーから、シリアスな歴史ロマンまで、青池保子の作品は多彩だ。面長の美青年像など、絵柄だけでなく、内容も独特。唯一無二の世界観で読者を魅了し続けている。

 既存の枠打ち破る

 青池保子のデビューは、中学3年生の頃。1963年に『りぼん増刊』で「さよならナネット」を発表したのが最初だ。その後、高校生になり、『少女フレンド』で10年ほど専属作家をつとめた。男性キャラばかり登場する『エロイカ』などのイメージが強い人は驚くかもしれないが、女の子が主人公の純愛ものなども手がけていたのだ。しかし、なかなかヒット作には恵まれず、苦節の時期が続いた。転機が訪れたのは、フリーに転身してから。70年代に入り、それまでの正統派の少女マンガでは物足りないと思う読者が増えてきたこと、そうした読者に合わせて新感覚の雑誌が増えてきたことは、心機一転の青池にとって追い風であった。

 そうした中で描いたのが、1976年に連載開始した「イブの息子たち」だ。3人のイギリス美形男子3人組を主人公に、ヤマトタケル、バレエダンサーのニジンスキーなど、歴史上の著名人が次々と登場しドタバタな笑いを繰り広げた。この異色コメディーは、読者に受け、青池は一躍人気作家となった。青池のドタバタ群像劇の才能は、本作で開花したと言ってもよいだろう。

 また、同時期に執筆した一連の海洋ロマンものも、青池にとって転機の作だ。最初は、海賊の人質となったお姫様の視点で描かれるなど、少女マンガらしいセオリーを守っていたが、悪役として登場した海軍将校のティリアン・パーシモンを描くうち、青池の意思が固まる。当時の心境を、『七つの海七つの空(豪華版コミックス)』のあとがきにて語っている。

 「少女との恋物語など知るものか。かつてないほど、私は悪役に惚(ほ)れたのだ。(略)この時私の漫画の描き方が変わった。それまで、清く正しいヒーローやヒロインが活躍する、いわゆる正統的な少女漫画を欺瞞(ぎまん)的に感じてはいても、長い間そのパターンに沿って描いてきた私にとって、悪役を主人公に置き据えた事は、大げさにいえば意識革命、早い話が本音で漫画を描き始めたのだ」

 少女マンガの新境地

 フリー転身後の意識改革により、青池は本当に描きたいものを描くようになり、少女マンガの新境地を開いた。中でも青池らしい持ち味が結実したのが、「エロイカより愛をこめて」である。前述の作品とほぼ同時期に連載開始し、第1回は、「イブの息子たち」のドタバタを踏襲した感じであった。超能力を持った3人の少年少女たちが、美術品専門の大泥棒で男色家のドリアン・レッド・グローリア伯爵(別名:エロイカ)とともにドタバタを巻き起こすお話だったが、第2話から別の方向に転換する。伯爵とは真逆の硬派な性格のNATO情報部のエーベルバッハ少佐が登場し、主軸がシフトしたのだ。3人の存在は儚(はかな)くも消え、その後の物語は、伯爵と少佐をメーンに進む。国際問題など絡めつつ、行く先々で騒動を繰り広げていくスパイアクション・コメディーとして、独立独歩を貫くのだ。

 本作がすごいのは、ドタバタ群像劇の笑いと、緻密な舞台設定が絶妙なバランスで融合しているところである。冷戦など時代時代の社会情勢、ヨーロッパの歴史や美術の蘊蓄(うんちく)などが、シリーズごとに緻密に織り込まれ、単なるギャグコメディーの枠にとどまらない。読めば読むほど発見があり、キャラクターたちも成長していく。だからこそ、38年、いまなお続く人気シリーズとして愛されているのだろう。

 2会期にわたり350点

 京都国際マンガミュージアムでは、そんな青池保子の画業50年を原画で振り返る展示を開催している。およそ350点の原画が2会期にわたって出展されるが、鮮やかな色彩の妙はもちろん、衣服の文様から馬の蹄(ひづめ)の裏、城の壁面のタイルなど細部に至るまで、1枚1枚に作者のこだわりが詰まっている。思わず「ほぉ…」とため息をついてしまうような美しい原画だが、本展はそれだけでは終わらない。実はほとんどの原画に、作者のコメントが付されているのだが、裏話などもあって、どれもクスっとなってしまうものばかりなのだ。コメントも含めて、「青池保子」というジャンルのマンガの世界に浸ってほしい。(京都国際マンガミュージアム 研究員 倉持佳代子/SANKEI EXPRESS

 【ガイド】

 ■『青池保子 華麗なる原画の世界 ~エロイカからファルコまで~』 2015年2月1日(日)まで、京都国際マンガミュージアム(京都市中京区烏丸御池上る)で。12月中旬に展示替え予定。水曜休館(12月29日(月)~1月3日(土)は年末年始のため休館)、大人800円、中高生300円、小学生100円。(電)075・254・7414。http://kyotomm.jp/

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