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見知らぬ人とつながるプロジェクト 「リー・ミンウェイとその関係展:参加するアート」
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入館者が花を持ち帰り、見知らぬ人に贈る「ひろがる花園」=2014年9月19日、東京都港区(原圭介撮影)
ともに話す、ともに食べる、手紙を書く、花を贈る…。日常のささやかな営みを通して、他人、そして世界にまでつながろうとする参加型の展覧会「リー・ミンウェイとその関係展」が、森美術館(東京都港区六本木)で開かれている。凶悪犯罪のはびこる現代社会。とかく縮んでしまいがちな「人間を信じる心」「他人に関わろうとする勇気」を取り戻せそう-そんな気持ちにさせるプロジェクトが盛り込まれている。
取材を終え、美術館のあるビルの下に降りると、青空の中に赤い東京タワーがくっきりとそびえていた。その景色を眺めているらしい女性に声をかけた。「すみません。お願いがあるんです」
女性は振り返り、ちょっと驚いた様子だったが、「この花もらってくれませんか」と私が差し出したオレンジ色のガーベラを受け取って、「うれしい」と笑みを浮かべた。
女性は最近、北京から東京に越してきたOさん(30)。余暇を利用し、このあたりを散策していたという。このあと、彼女と私がどうしたかは紙面がないので省くが、内心どきどきしながら参加したプロジェクト「ひろがる花園」は、いともたやすく成功したのである。
「ひろがる花園」では、入館者がギャラリー内でもらった花を帰り道、見知らぬ人にプレゼントする。簡単なようで、「断られたらどうしよう」「変なヤツだと思われないか」、不安や雑念がわいて、実行には勇気がいる。まして強盗殺人やストーカー殺人、幼児殺害など、危険がそこら中に転がっている現代社会。なるべくなら赤の他人とは関わりたくないという風潮はどんどん広がっている。
しかし、リー・ミンウェイ氏は「こうした社会だからこそ、1対1の関係を築くことが重要だ」と力説する。「プロジェクトをやってみた人は、相手が寛容な姿勢を持っていることに気づく。心の開き方は驚異的で、その『一期一会』に感謝するはずです」と参加を勧める。
プロジェクトにはほかに、入館者が持ち込んだ衣類をアーティストらが繕いながら会話をし、壁に取り付けた糸巻きのカラフルな糸と衣類をつなげる「繕う」、言えなかった「ありがとう」や「ごめんなさい」を手紙に書く「手紙をつづる」、アーティストやホストとともに1対1で食事をする「ともに食す」、閉館後の美術館内で、アーティストかホストと抽選で選ばれた人がベッドを並べて寝る「ともに眠る」などがある。
例えば「手紙をつづる」では、特定の人へのあて先が書かれて封がされていれば投函(とうかん)してもらえ、そうでなければ、ほかの入館者が自由に読んでいい。ここでも、見知らぬ人とつながることができる。どのプロジェクトも、日常、誰もがしている行為だが、そこに「1対1の関係を築く仕掛け」が織り込まれている。
リー氏は、見知らぬ人とつながりを持つための大事なポイントとして、自らの“心のありよう”を挙げた。「簡単なことです。自分の心を開くこと。開いて接すれば、相手は感じてくれる。そして、見たことのないような美しい花のように心を開いてくれます」。確かに、どこまでも屈託のないリー氏の表情や話しぶりを見ていると、誰とでも友達になれそうに思えてくる。
つくった結果よりも、つくる過程で生じる「関係」を重んじるアートは、1998年、フランス出身のニコラ・ブリオーが著書「関係性の美学」で取り上げ、「リレーショナル・アート」と呼ばれて、世界的な広がりを見せている。リー氏もこの約20年間、こうした創作活動を続け、注目を浴びてきた。
いよいよ人間関係のあり方まで、アートから教えてもらう時代がきたのかと思ったとたん、待てよ、こうした教えは今に始まったことじゃないと気がついた。日本では茶道や禅にもあった。展覧会では、リー氏の考えや活動につながっている白隠、鈴木大拙、イヴ・クラインら思想家やアーティスト11人も紹介している。
思えば、どんな作品でも、もとの形を永遠にとどめることはない。まして鑑賞する人間にも永遠の命はない。人と人との関係を生み出す創作活動は、無常の中で、ささやかながらも豊かな時間をすくい取ろうとする努力なのかもしれない。東日本大震災が起きた3年半前、多くの人がその大切さに気づいたはずだった。
ところで、この記事で私は、見知らぬ読者とつながることができただろうか。(原圭介/SANKEI EXPRESS)