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「札幌国際芸術祭2014」 大都市に潜む自然があふれる
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島袋道浩「一石を投じる」(提供写真)
豊かな自然の恵みを求め、今やアジア規模で観光客を集める札幌。今年、ユネスコが認定する創造都市ネットワークにメディアアート都市として認定された。そしてこの街の創造性を表現するため、はじめての大規模芸術祭である「札幌国際芸術祭2014」が7月から、9月28日まで開催されている。8月のおわり、市内全体に配されている展示をめぐってきた。
この札幌最初となる大規模芸術祭のゲストディレクターに取り組むのは、音楽家であるとともに数多くのメディアアートの作品に関わりあってきた坂本龍一。坂本は、「都市と自然」をテーマに掲げ、「ゲスト」という立場以上に制作に注力、札幌をつくり出した必然である自然の特徴や先住民であるアイヌ以来の営みから洞察した、都市のさまざまな環境がメディア(媒介)となって芸術家たちが表現する、この街でしか体験し得ない展示やプロジェクトを現出させた。
北海道庁と札幌駅、大通を結ぶ札幌の中核の交差点を、日高地方二風谷のアイヌモシリより運ばれてきた巨大な石がふさいで鎮座している。島袋道浩による作品「一石を投じる」だ。自然のまま苔(こけ)むす巨石が、北海道の統治の中心である道庁と中核となるオフィス街に鎮座するさまは、自然と風土からそれを塗り重ねたメトロポリスに一石を投じるインパクトを与えている。
この地にアイヌの人々が邑(むら)を構え、その後、北海道経営の中心地となる都市として開拓された理由に、平坦(へいたん)な地にあって豊かな湧水が存在していたことがある。この巨石が鎮座する界隈(かいわい)は、豊かな湧水が湧き流れる場所であり、現在もまた人や経済の流れを運んでいる。
自然の上に塗り替えられた文明の流れを表象するのが、直下の「地下歩行空間」だ。長い冬をしのぐ無数の人々の流れとともに、アート展示などを可能とする巨大なギャラリー空間でもある。この地下に展開する「センシング・ストリームズ」というテーマの展示は、その水脈(ストリーム)のように市内各地の展示へとつながっていく。
毛利悠子は、地下での展示を提案された後、そこに潜む水脈が続く場を求め、開拓初期に建てられた貴賓館「精華亭」に行きあたった。この街に住む人もほとんど気づくことのなかった、豊かな水を得て入植した札幌の起点ともいうべき場所である。毛利は庵に世界各地で手にした「もの」を集め、モーターで動かし、まるで小動物のように漂う作品「サーカスの地中」を展開している。毛利が札幌で新たに得た「もの」は、あまりに多く出土するため、触ることのできる教材として提供されている化石の貝類。都市に内在する、自然の背景に誘うかのようである。
今日における現象のストリームを表現したのが、坂本龍一と真鍋大度による「センシング・ストリームズ-不可視、不可能」。地下歩行空間にある奇妙なアンテナで受信した電波を北の郊外にあるモエレ沼公園に伝送、巨大高精彩ディスプレーでリアルタイムに可視化映像と音で体験する。イサムノグチによる、ごみ処分場を再生した有機的かつ雄大な人工自然の庭園公園に抱かれながら、都市の豊富な人工自然としての電波という無機質な存在を真鍋による繊細な音響と画像の表現で感じるのだ。
北海道立近代美術館では、中谷宇吉郎博士による雪の結晶生成をめぐる写真と、それに触発されたカールステン・ニコライによる結晶生成機を中心とする作品が展開されている。一方で、南の丘の奥にある札幌芸術の森では、中谷芙二子による人工噴霧による霧の彫刻が展開、中谷父娘2代による自然現象による「造形」表現の磨きを対比できる。中谷芙二子の作品「FOGSCAPE#47412」は、ランドスケープの中での人工的な移ろいだけでなく、鑑賞者が霧の中に包み込まれる作品であり、視覚だけでなく触感や嗅覚で、その造形に没入した、気配までをも表現したものとなっている。
芸術の森では、天井裏に展開する森の造形をのぞき込む栗林隆「ヴァルト・アウス・ヴァルト(林による林)」、陶器に入る罅(ひび)のかすかな音を愛でることを試みさせる宮永愛子「そらみみみそら」。異なる種類の蜘蛛(くも)を放ち、巣をつくらせその複雑に織り成す造形を見せるトマス・サラセーノ「孤立性、社会性、準社会性のハイブリッドな楽器『三角座』:1匹のシロホシヒメグモ(10日間)、イワガネグモ科のクモの小共同体(4ヶ月)、2匹のオオワレズミグモの子(2週間)によって制作されたもの(仮題)」など、現象をめぐる作品群が、札幌に宿る自然の存在に示唆を与える。
都心に投じられた一石を起点に、流れるかのように配された作品に誘われ森に到るまで回遊した後、悠久なる都市の深層を巡るパズルをおのおのが解いたかのような気持ちを催す余韻を、この札幌最初の試みは与えてくれたのであった。(クリエイティブクラスター理事長 岡田智博/SANKEI EXPRESS
■「札幌国際芸術祭2014」 9月28日まで、北海道立近代美術館(札幌市中央区北1条西17丁目)など。62組約120点を展示している。共通セット券は一般1800円。(電)011・222・4894。