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美しい書店と居心地いい空間 台北「VVGサムシング」

 本屋にカフェや雑貨店を組み合わせた知的で居心地のいい空間が台北のあちこちに出現している。その先端を走るのが、ひとつずつ個性の違うレストランやショップを提案している「VVG」だ。1999年、台北の住宅街にオープンした小さなレストランに始まり、気持ちのいいライフスタイルを探っていく独自の歩みが静かに支持を広げ、リスク覚悟で2009年に立ち上げた本屋が「世界でもっとも美しい書店20」に選ばれて勢いがついた。現在は工場跡地の再開発エリアに出店した最新のショップを含め8店舗を展開している。台北の新たな顔を訪ねた。

 いいもの、好きなものを並べる

 台北の大通りのひとつ、忠孝東路から地図を頼りにいくつか角を曲がると、よく手入れされた植栽の緑が豊かな路地にたどり着いた。赤い引き戸の奥にある、小ぢんまりした空間が目指す本屋「VVGサムシング」だ。

 クッキング、デザイン、アート…。英語やフランス語の書籍も多い。大学で心理学を専攻していたという店長のスイート・リンさんは「自分たちの興味がある本を並べていったら、こんな書棚になった」と笑う。

 ティーカップやキッチン用品などの雑貨が本と一緒に並べてある。米国のカルチャー情報サイト、フレーバーワイヤーが「世界でもっとも美しい書店20」に選んだ書店は、ベストセラーを平積みする一般の書店とはまったく異なり、自分たちが勧めたい本やグッズを丁寧に陳列した空間だ。

 「世界のあちこちで見つけた、いいものや気に入ったものをみんなでシェアする。それが私たちの基本姿勢。VVGは、Very Very Good(とてもとてもいい)の略なんです」

 本屋で落ち合った広報企画担当のレスリー・リウさんは、滑らかな英語でこう話しながら、路地の向かいにある第1号店のレストラン「VVGビストロ」に案内してくれた。20代から30代のスタッフがきびきびと動いていて気持ちがいい。メニューは豊富だが、いすやテーブルはふぞろいで、高級志向ではないことがわかる。

 レストランから多角的に広がる

 この路地の周辺には、おばあちゃんの裁縫や編み物の良さを受け継ぎたいと考えて布地や糸などを集めた「VVGシフォン」、朝食付きの宿泊ができる「VVGBB+B」、カラフルなお菓子がたっぷりと並ぶ「VVGボンボン」など、グループの店舗が点在している。ケータリングを行う「VVGケータリング」はラグジュアリーブランドのパーティーで仕出しをまかされるほど評価が高いという。

 経営者のグレース・ワンさんが語る店舗展開のコンセプトは明快だ。「1999年、アーティストや料理が好きな友人たちが集まって、『こんな店があったらいい』などと話しながら、小さなレストランを作った。そのファンが次第に広がるなかで、カフェやケータリング、宿泊施設、本屋などを段階的に増やしていった。最初からいまのかたちを目指していたわけではないけれども、共通するキーワードがある。それはライフスタイルを大切にするということだ」と話す。

 「豪華さ」ではなく「良質」を

 大切にしたいライフスタイルはどんなもの?

 「自然で、快適で、健康的なものがいい。ラグジュアリー(豪華さ)はほめ言葉とは思わない。グッド・クオリティー(良質)が大切。コジー(居心地がいい)ということね」

 そんなVVGの考え方は、洗練されたイメージとともに20代や30代の若者層を中心に支持されている。台北では、日本統治時代の酒工場やたばこ工場の跡地を華山文創園区や松山文創園区といった新たな文化エリアに生まれ変わらせる都市再開発が進んでいるが、VVGはそうした施設でキーテナントの役割を果たしている。ユニークなのは、新たに展開したレストランやカフェのほとんどに本屋を融合させているところだ。

 「子供のころ、香りがついた本や、絵が飛び出す本が好きで、読書が楽しかった。読書はひとを幸せにすると思うから、店舗が増えるなかでライフスタイルにあわせた本屋が必要だと考えた。実際には、本屋だけで採算をとるのは難しい。でも、海外からの評価もあって、結果的に私たちの店舗に知的なひとや本好きのひとが集まるようになった。そこから新しい展開が生まれた」

 今後はファーマーズマーケットやDIYなど、ライフスタイルに関わる分野をもっと幅広く扱っていきたい、と事業プランを語るグレースさん。いま注目しているのは、靴磨きのサービスだという。

 VVGの志向に時代の風を感じた。(佐野領、写真も/SANKEI EXPRESS

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