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未来のノーベル賞誕生に期待 「異才発掘プロジェクト(ROCKET)」スタート
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ロボットクリエーター高橋智隆氏の講義を受ける子供たち=2014年12月10日(日本財団撮影)
突出した能力を持ちながら現状の教育環境になじめず不登校傾向にある小中学生を選抜し、将来の日本をリードする人材を養成しようという「異才発掘プロジェクト(ROCKET)」が10日にスタートした。このプロジェクトは、東京大学先端科学技術研究センターと日本財団が共同で実施するもので、約600人の応募者の中から書類選考と面接で選ばれた15人が、東京大学での初回の講義に臨んだ。
現在、全国の小中学校で、約12万人の児童生徒が不登校状態にあるといわれている。本格的に分析したデータはないが、この中に突出した才能を持ちながらも学校になじむことができず、不登校になっている子供たちがいるはずだ。少なくとも応募者の多くは高い能力があるのに、「集団生活が苦手」「コミュニケーションができない」「興味のあることしか集中できない」「字を書くことが困難」といった理由で学校生活に適応できないでいた。
天才の代名詞であるエジソンもその突き抜けた好奇心が故に、先生を質問攻めにし授業の進行を妨げ、わずか3カ月で小学校を退学になってしまったという有名な逸話がある。学校に代わってエジソンに勉強を教えたのは、母のナンシーだった。ナンシーはエジソンの疑問や好奇心に徹底的に応え、ユニークな才能を伸ばすことに注力し、偉大な発明家の基礎を作り上げたといわれている。
このプロジェクトの狙いは、エジソンの母ナンシーのように、現状の教育にはなじめない子供たちに新しい教育の機会を提供し、その才能を開花させることにある。プロジェクトのディレクターである東京大学先端科学技術研究センターの中邑賢龍教授は、「突き抜けた能力が故に、学校に適応できない子供たちにこそ、将来のイノベーションを起こす可能性がある。隠れた才能を引き出し、つぶさずに育てることが重要」と話す。
欧米諸国では1950年代後半から、知能優秀な子供に対して、通常の学校教育の学習を超えた内容の指導を提供する「特別支援教育」が行われてきた。「特別支援教育」が心身に障害を持つ子供だけが対象である日本とは、大きな違いがある。協調性を重んじる日本の教育制度には、早期入学や飛び級などの知能優秀な子供への支援は、ほとんど存在しない。高度成長期には大きな成果を上げた日本式の教育システムだが、多くの専門家が、イノベーションの面では世界に後れをとっていると指摘する。
今回選抜された15人は、大学レベルの数学を独学で学んだり、水族館に通いながらサンショウウオなどの生き物の飼育実験を行ったり、独学でコンピューターのプログラミングを行うなどユニークな才能を持つ。この子供たちの才能を開花させるために、月に1回程度、各分野のトップランナーによる特別講義のほか、3Dプリンターなどを利用した工作や料理作りなど実習からの学びを提供するほか、それぞれの興味に応じて、インターネットを利用した個別指導も行う。
初回の講義を担当したのは、世界的に著名なロボットクリエーターである高橋智隆氏。講義を終えた子供たちは、「憧れの高橋さんに質問することができた」「初めて本物のロボットを見ることができた」「新しいアイデアが浮かんだ」と興奮さめやらない様子だった。くしくも、この日行われたノーベル賞授賞式では、青色LEDの開発に成功した3人の日本人に物理学賞が贈られた。いつの日か、このプロジェクトから未来のノーベル賞が生まれることを期待したい。(日本財団 ソーシャルイノベーション推進チーム 沢渡一登/SANKEI EXPRESS)