SankeiBiz for mobile

政治に期待しない女子学生たち 渡辺武達

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSの社会

政治に期待しない女子学生たち 渡辺武達

更新

テレビ朝日系「ドクターX~外科医・大門未知子~」制作発表会見に出席した米倉涼子(前列右から2番目)ら出演者=2014年9月30日、東京都港区(春名中撮影)  【メディアと社会】

 テレビや新聞の年末年始特別編成も終わり、平常に戻りつつある。「全員参加」をうたったNHKの紅白歌合戦も視聴率が40%を超え、同じ時間帯の民放番組では、日本テレビ系の「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!大晦日年越しSP」が、その半分だが一番多くの人に見られたという。一方で、除夜の鐘をはさんでメールの送信が増加したとか…。

 つまり、今年も日本人のメディアとの接触や情報環境は例年と変わりなく過ぎたようだ。筆者のように大学に勤めていると、学生たちとの日常会話は、就職活動を前にし、心揺れ動く彼、彼女たちがどのようなメディアと接触し、どのような情報に影響を受けているかということになる場合が多い。今回は、昨年12月の衆院選でも政権政党が公約などに掲げた「女性の活躍」について、女子学生たちがどのように受け止めているのかを、テレビドラマと関連させて考えてみたい。

 生き方のモデルは米倉涼子

 昨年後半のドラマで、女子学生たちとの雑談の中で多く話題に上ったものが3つある。1つが、「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)、2つ目が「きょうは会社休みます。」(日本テレビ系)、そして3つ目が「ファーストクラス」(フジテレビ系)だ。視聴率的にもその順番だった。

 その要因として、2つ目のドラマを好んだ女子学生は異性の友達が少ないタイプで、3つ目を好んだのは、ファッションにとりわけ関心があるタイプだったようで、前者の方が多くいたことが、視聴率の勝敗に表れたわけだ。そして、いずれのタイプとも、1つ目のドラマの主演女優、米倉涼子さん(39)の実人生も含め、生き方のモデルとしたいと思い、それが視聴率が最も高かった理由ではないだろうか。

 そんな彼女たちの社会姿勢や政治姿勢は明確で、安倍晋三首相だけではなく、誰が言ったとしても「女性登用」などという言い方は「上から目線」そのもので反発を感じるそうだ。

 彼女たちは、男女平等は当然という戦後憲法下の教育を受けながら、会社や家庭を問わず、社会全体がそうはなっていない面が多々あることを実感している。さらに男女平等は「結婚によって保障されるわけではない」と考えているからだ。

 「きょうは会社休みます。」で綾瀬はるかさん(29)が演じた主人公、花笑は会社に来たアルバイト学生と恋仲になるまで、男性経験がなかった。最終的には学生と破局し、一人暮らしを一生続けることも覚悟し保険に入り、全10話が終わる。それが、社会実態への恨みとも重なり彼女たちを泣かせたのだ。

 一方で、彼女たちは、「ドクターX」の主人公である優れた技術を持つ孤高の医者、大門未知子と、それを演じた米倉さんの実人生をダブらせて、そうした生き方こそ、自分たちの母親の時代にはなかった、望むべき生き方だと考えているらしい。

 個人の努力を重視

 米倉さんは、ミュージカルの本場、米ブロードウェーの舞台で主演を務めることを志し、それを努力の積み重ねで実現している。出演するテレビドラマのほとんどが高視聴率をあげており、メディアにとってもヒロインそのものだ。

 若い女性だけではなく、多くの女性が反応する言葉といえば、「ダイエット」と「ファッション」。沢尻エリカさん(28)を主演に起用した「ファーストクラス」は、後者のニーズを当て込んで製作されたようだ。ストーリーには、恋はもちろん、養護施設へのやさしいまなざしや服飾の「手作り感」の大切さなどが盛り込まれたが、視聴率的には苦戦した。

 ドラマの嗜好(しこう)が「きょうは会社休みます。」と「ファーストクラス」に分かれながらも、「ドクターX」の主人公に憧れる女子学生たちに共通しているのは、希望の生き方を社会的に実現する努力よりも、個人として実現する努力を大事にしていることだ。だから、政治による実現などには期待せず、投票所にも足を運ばない。

 女子学生と政治の間には絶望的になるほどの「隔たり」がある。恐ろしいのは、今の日本では、その隔たりのおかげで、彼女たちの不満が政治へと向かわず、政権が維持されているかもしれないことである。(同志社大学社会学部教授 渡辺武達(わたなべ・たけさと)/SANKEI EXPRESS

ランキング