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多彩な音楽性 Blue-eyed soulの新星 ジャロッド・ローソン
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音楽アーティスト、ジャロッド・ローソン(提供写真) プロのDJであっても、レコード店での試聴やプロモーション盤のチェックではなく、同業者から情報を得ることがある。熱心なファンから「プライドはないのか」とか「同業者にネタをバラしていいのか」と質問されたりすることもある。しかし、DJの使命は、知られざる名曲を一人でも多くの人に紹介することだと思っている僕は、尊敬するDJに教えを請うことに何の恥じらいもないし、ときには後輩のプレーに曲名をたずねることもある。プロのDJたるもの日々リリースされる膨大な楽曲を見過ごさないように、あらゆる機会とルートを使って未知の楽曲に出会う努力を続けないといけないわけだから。
今回、紹介するジャロッド・ローソンは僕が尊敬するロンドンのジャズDJ、パトリック・フォージのラジオ番組で知った。昨年末は彼の家にお邪魔し、さまざまな音源を直伝してもらったりもした。ただし、日常的に質問するわけにもいかず、彼の番組を時間のあるときにチェックしている。2014年で最大の発見はこのジャロッド・ローソンだったと言えるかもしれない。
昨年11月に日本盤がリリースされ、3月に来日も決定したジャロッド・ローソン。本人はアメリカのポートランド在住なのだが、昨年5月に自主制作でアルバムをリリースし、パトリックだけでなく、ケヴィン・ビードルやジャイルス・ピーターソンといったジャズやソウルを愛好するイギリスのDJの間で話題となり人気を集めることとなった。
そもそもイギリスでは若者がブラックミュージックを愛好する伝統みたいなものが浸透している。1960年代のモッズはソウルやスカを愛聴したし、70年代はディスコブームと連動したジャズファンクがブームとなり、80年代には、シャーデーやスタイル・カウンシルといったジャズやR&B、ボサノバを取り入れたポップスが大ヒットした。90年代にはアシッド・ジャズ・ムーブメントの中からブラン・ニュー・ヘビーズやジャミロクワイといったアーティストたちがスターになり、本場アメリカでも成功を収めている。そんなイギリスでも音楽に詳しく、ときに世界の音楽動向を左右するDJたちを魅了した彼の名声が高まるのは時間の問題であった。
インディーズからデビューしたものの、実力は折り紙付きで、昨年6月にはキャピタル・ジャズ・フェスティバルなる音楽祭でエリカ・バドゥやジョン・レジェンドのオープニングアクトを務めた。ポートランドで行われたスティービー・ワンダーの誕生日会にも招待され、本人の前で歌声を披露しただけでなく、彼との共演も果たしている(ジャロッドは、スティービーの“ソングス・オブ・キー・オブ・ライフ”に衝撃を受け、シンガー・ソングライターを志したのだ)。
甘いマスクに、華麗なコーラスワーク。ジャズやソウルを基調にしながら、R&Bやラテンまでを網羅した多彩な音楽性…。ダンスミュージックとしてフロアで支持され頭角を現したジャロッドだが、ポール・ウェラーやジェイ・ケイの後継となりうるブルー・アイド・ソウルの新星と評することができるのではないだろうか。今後はAORのファンまでを取り込んで、往年のダリル・ホールやドナルド・フェイゲンのように、洗練されたポップミュージックとして世界でブレークする可能性も秘めているとさえ言えるだろう。
僕がトークと選曲を担当するInter FMの番組「JAZZ ain’t Jazz」でもリスナーからの評判は良く、2014年の音楽を振り返る番組連動の音楽賞JaJアワードでも、ベスト男性ボーカルと新人賞の2部門にノミネートされている。彼が受賞の暁には来日のステージでトロフィーを授与するのもいいかもしれない。10年かけてアルバムを作ったという完璧主義者の彼のライブを、この目で目撃できる日を楽しみにしている。(クリエイティブ・ディレクター、DJ 沖野修也/SANKEI EXPRESS)