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目利きが選んだ「未来の古典ジャズ」 DJ、ジャイルス・ピーターソン コンピレーション新譜
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英国を代表するDJ、プロデューサー、ジャイルス・ピーターソンさん(提供写真) 踊れるジャズとジャズに影響を受けたダンスミュージックの総称、クラブジャズ。そんなクラブジャズの先駆者で、英BBC放送では毎週3時間のラジオ番組を持ち、日本でもInterFMで水曜の深夜に1時間を担当しているクラブDJにして、ラジオDJでもあるジャイルス・ピーターソン。今年は、ブラジルW杯ということもあり、現地ミュージシャンをオーガナイズしてアルバムをプロデュースしたり、自らが運営するレーベル「ブラウンズウッド レコーディングス」から本コラムでも取り上げた新人ユニット、アヌーシュカのデビューアルバムをリリースするなど八面六臂の活躍でわれわれを楽しませてくれた。そして、彼が年末に2014年を総括するかのようなコンピレーションをリリースした。それがこの『ブラウンズウッド・バブラーズ・11』である。
既に人気シリーズとなっているこのカタログは、いわばその時代を代表するトラックをジャイルス・ピーターソンという希代の目利きをバイヤー役に起用した音楽のセレクトショップのような作品。世界中からジャイルスの元に届く音源を彼が厳選し、主にリスニング色の強い楽曲を収録している。
このコンピレーションでは、彼の主眼は“踊る”ということよりも“聴く”ことに置かれている。それは、彼がクラブDJであると同時にラジオDJであるということが作用しているのだろう。クラブDJイコール踊らせ屋という誤解が世の中に広く流布しているが、ジャイルスのラジオ番組やコンピレーションを聴くとDJは音楽のキュレーターであるということを再認識させられる。そのテイストメーカーとしての能力は高く評価され、現在ブルーノートと契約しているホセ・ジェイムズの才能を見いだしたり、同じブルーノートに所属し、グラミー賞を受賞したグレゴリー・ポーターをいち早く自分のイベントで紹介するなど逸話には事欠かない。
ノンストップミックスでダンスフロアの雰囲気を再現するのではなく、さまざまな音楽ジャンルの中から、ジャズに影響を受けた音楽を抜粋し、ボーダーレスな感覚でまとめあげていく手腕は圧巻。ヒップホップ、R&B、エレクトロニカ、テクノ、ロック、フォークまでを網羅しながら、統一感を出すのは至難の業だが、彼の好奇心と自由な感性はむしろごった煮の面白さを提案している。
もしかすると彼は、ジャンルで音楽を聴くという閉塞性からリスナーを解放しようとしているのかもしれない。とはいえ、ジャイルスが考えるジャズという軸は一貫しており、楽器やリズム、歌唱法といったより明白なジャズの印が随所にちりばめられ異なる音楽性をつなぎ止めているとも言える。
『ブラウンズウッド・バブラーズ・11』は、単に彼が最近のお気に入りをセレクトしたのではなく、ある意味年間ベスト的な意味合いを持つだけに資料価値も高い。ジャズから他の音楽へ、あるいはその逆へ、自分のテリトリーを広げてみたい人には絶好の一枚だ。旧譜を知り尽くしたジャイルスが新譜の中から未来の古典になるであろう普遍性の高い楽曲をコンパイル(編集)しているとしたら、これは予言であると言うこともできるに違いない。(クリエイティブ・ディレクター、DJ 沖野修也/SANKEI EXPRESS)