ニュースカテゴリ:EX CONTENTS
国際
話題のマナーハウスで王侯貴族気分 英国・サセックス
更新
グレイブタイ・マナーハウスの朽ち果てた雰囲気の外観。古ければ古いほど価値が高まるお国柄が感じられた=2014年12月28日、英国・サセックス(内藤泰朗撮影)
マナーハウス(荘園邸宅)と呼ばれる中世の貴族の館を改装した宿泊施設が、英国で静かな人気を集めている。階級社会の人間模様を描いた英テレビドラマ「ダウントン・アビー」の大ヒットが、その背景にあるともいわれている。百聞は一見にしかず。冬休みにロンドン南郊のサセックスにある話題の宿泊施設2カ所を訪ねてみた。
ヒツジが草をはむ牧草地や森林の細い小道を車で行くと、最初の目的地「グレイブタイ・マナー」の門に到着した。門は自動的に開き、中に入ると突然、目の前に、古めかしい石造りのお屋敷が現れた。
所々、苔むした灰色の建物は朽ち果てそうな外観だ。夕暮れ時に到着したこともあって幽霊屋敷が頭に浮かんだが、玄関から出てきた若いベルボーイの案内で建物に入ると、雰囲気は一変した。
暖炉には火がたかれ、薪がはぜる音が聞こえた。暗めのロビーには、クリスマスツリーなどの飾り付けがしてあり、心地よい。客室係の女性が「シラカバ」の間に案内してくれた。桜色が基調の壁には、植物の絵が描かれ、何ともしゃれたデザイン。朽ち果てた印象の外観とは正反対の暖かさだ。支配人からの手書きのウエルカムレターも置かれていた。
夕食前にロビーに降りていくと、「ミスター・ナイトー」と名前で呼ばれ、暖炉のそばのソファに通されて食前酒とおつまみを振る舞われた。まるで王侯貴族の家に遊びにきたVIPのような扱いだ。
隣のソファに座っていた地元の壮年カップルは「ここの料理が素晴らしいと聞いてきた」と話していた。若い英国人シェフの創作料理は実際、伝統的な英国料理とはまったく別物の衝撃的なおいしさだった。
翌朝、庭園を散策した。空は珍しく晴れ上がり、冷え込んだ庭園には、霜が降りて落ち葉が白く化粧をしていた。庭は静かに冬眠していた。
16世紀末に建設されたグレイブタイ・マナーは、密輸商人たちの隠れ家や倉庫になったことも。だが、自然を生かした庭園づくりを提唱し、ガーデニングを世界に流行させた英国の造園家ウィリアム・ロビンソン(1838~1935年)が1884年にマナーを買い取り、転機が訪れた。
「美しさが見えなくなることは決してない」「自然界がやることには、必ず何かの意味がある」-。そう主張するロビンソンは自然の景観を生かした「理想の庭園」づくりを自分のマナーハウスで実践した。その伝統は今も健在だという。
「春になると、庭も室内も花でいっぱいになって、それはそれは美しいですよ。南斜面にある“キッチンガーデン”はご覧になりましたか。ここもロビンソンの設計で、冬でもキウイが収穫できるんです」
支配人のアンドリュー・トマソン氏(60)はこう話し、さらに、「サセックスはまだ観光化されていない。ロンドンに近いのに観光の手垢がついていないところが魅力です」と付け加えた。もう一度、今度は、春に訪れたくなった。
次に向かったのは、同じサセックスで約900年もの歴史を持つアンバリー城だ。
カトリック教会の司教が夏の宮殿として使い、英国王ヘンリー8世(1492~1547年)が訪問したり、その後、エリザベス1世(1533~1603年)が一時、居城としたりと、英国史にも登場する城には、エリザベス女王(88)も王女時代に滞在した。まさか、そんな所に宿泊できるとは思っていなかったが、紛れもなく中世の城はホテルになっていた。
城壁の白いハトたちに見られながら門をくぐり、迷路のような通路、甲冑(かっちゅう)や大砲が飾られた吹き抜けを通って客室に向かう。王侯貴族の時代に思いをはせ、部屋から中庭を見下ろすのは不思議な体験だ。
そんな古城ホテルは、28歳の支配人マシュー・ドリンクウオーターさんと、27歳にして数々の賞に輝く料理長ら、英国の若者たちによって管理、運営されていた。古城は若者たちに新しい命を吹き込まれていた。
「ここの魅力は、宿泊者がおとぎ話の世界にいるかのような感覚を体験できること。来訪者が驚き、喜ぶ姿が楽しい」。若き支配人は語った。
「古ければ古いほど価値がある」-。英国で度々、そう言われる理由が少しは理解できた気がした。(内藤泰朗、写真も/SANKEI EXPRESS)