SankeiBiz for mobile

【野口裕之の軍事情勢】不気味な上昇を続けるオバマ氏の“鳩山度”

 フランスの風刺週刊紙本社銃撃などテロを受けバラク・オバマ米大統領(53)は20日、一般教書演説で“決意”を披露した。しかし、小欄には風刺漫画のキャプションか自虐ネタに聞こえた。安全保障に関し、オバマ氏の揺らぎに揺らぐ姿勢では「テロリストに追い詰められ、世界秩序が破壊される」。その点、鳩山由紀夫氏(67)には揺らぐ対象の安全保障観自体がない。何しろ首相就任後、米海兵隊の戦略的価値を学ばれた。いわく-

 「学べば学ぶにつけ(沖縄の海兵隊で)抑止力が維持できるという思いに至った」

 軍人への失礼の極み

 安全保障への度し難い認識や取り組み以外で、日米戦闘集団の両最高司令官に共通するのが軍人・自衛官への失礼の極み。オバマ氏は2014年、大統領専用ヘリコプターを降りる際、タラップ下両側で敬礼した若き海兵隊員に、コーヒー容器を持ったままの右手で答礼する「カフェラテ敬礼」を犯した。

 鳩山氏も首相時代の09年、自衛隊殉職隊員追悼式に欠席しながら翌年、韓国軍海兵隊員を前首相として弔問。「一刻も早く来たかった」と哀悼の意を示した。

 この2人、どうかしている。もっとも、米軍の効果的運用に無知、または忌避するオバマ氏の場合、中国/北朝鮮/中東/ウクライナ…の蛮行や紛争を半ば座視し、世界戦略レベルの失策を連発、世界秩序破壊の傷口を広げた。

 片や鳩山氏は、沖縄の米軍基地移設につき、思い付いた「方便」でその場を取り繕い、日米同盟に亀裂を入れたが修復された。2人がまき散らす“国際紛争助長被害”はスケールが違う。オバマ氏は、任期切れを前に歴史に名を残そうとウズウズしている。案ずるなかれ。鳩山氏を超え「歴史に名を刻む最悪の最高司令官」に躍り出る日は近い。

 軍はモラル=軍紀とモラール=士気を維持しつつ、最高司令官の命令で国家や国際の平和を命を賭して守る。13年間の対テロ戦争で、米軍は7000人近い英霊を正視してきた。最高司令官自らの「カフェラテ敬礼」をよそに、軍紀・士気は韓国軍ほど危険信号を灯していない。

 「カフェラテ敬礼」の淵源をたどると、オバマ氏を取り巻く仲良しグループに行き着く。1期目は適材も散見されたが、現在はデニス・マクドノー大統領首席補佐官(45)▽スーザン・ライス国家安全保障担当大統領補佐官(50)▽サマンサ・パワー国連大使(44)…軍事音痴が増えた。側近の軍に対する立ち位置の象徴が「カフェラテ敬礼」なのだ。

 「文民の暴走」を誘発

 側近の不敬は軍との不協和音を醸すだけでなく、シビリアン・コントロール(文民統制)が弱体化する前兆だ。ただ起きるのは、軍ではなく「文民の暴走」。彼らは大統領と軍の間に「蛇口」を設け大統領に必要な軍の意見・分析を調節。一方で、政権浮揚に資する軍事情報は積極的に吸い上げる。国家、特に大国ならば、政治が軍事に注文を付ける局面は必要としても、軍事的合理性や国際平和との均衡を極端に崩している。

 軍事戦略・作戦を政治でこってり味付けされる結果、軍による政治への情報管制という危険を誘発してしまった。オバマ政権途中まで国防長官を務めたロバート・ゲーツ氏(71)が回顧録で告白した。

 《国防総省に『ホワイトハウスには情報を上げ過ぎるな』と指示した》

 CIA(中央情報局)生え抜きで、初のCIA長官に就いたゲーツ氏の手法は軍正統より外れる。だが、一般教書演説を聴けば苦悩は察して余り有る。

 「中東で新たな地上戦に引きずり込まれる代わりに、テロ組織を弱体化させ、最終的に壊滅すべくアラブ諸国を含む広範な有志連合を率いている」

 イスラム過激武装集団・イスラム国掃討の決定打=地上戦闘部隊派遣を怖がり、空爆でお茶を濁す言い訳。加えて、手の内に変更なき旨を高らかに宣言する愚。アフガニスタン増派開始前に撤退時期に言及してもいる。戦法周知で敵を利し、味方の作戦効果は縮減された。

 決め込む「世界の傍観者」

 為政者と側近が軍を遠ざける異常は、軍の政治接近に比し格段に危ない。戦場での流血を画像を通し知る文民は、死と向かい合う軍人より凶暴になれるためだ。実際、ベトナムやイラクでの戦争(1960~75/2003~11年)では、文民が戦術・作戦領域に無制限関与し泥沼化を招く一要因を創った。文民統制下で、軍は文民が最終決定した戦に服従せねばならぬ。反面、軍が負け判定をシミュレートした戦にさえ、抗命は許されない。オバマ氏側近は政治浮揚策を強く意識する上、人権・人道守護と引き換えに無謀な戦争に突入したがる人物も認められ、「引きこもり軍略」が大きく逆ブレする観測も皆無ではない。

 当然、戦略・政策決定権は政治の側。ただし、軍事的合理性や専門的知見を理解→吸収した策定であるべきで、作戦行動や部隊編成・規模などを軍が相当部分任う政⇔軍関係こそ健全だ。国外派遣に臨み、国際常識では自衛隊が決めるはずの細部まで国会で論ずるが、未成熟な民主体制を露呈している。

 ところで、指導力ゼロ+虚言癖+自画自賛+言葉の軽さ+無責任…と、オバマ氏の“鳩山度”は不気味な上昇を続ける。一般教書演説でも「シリアでは、軍事力を含む米国の指導力がイスラム国の前進を食い止めている」とウソをついた。

 シリア内戦では12年、政府軍が化学兵器を使えば軍事介入すると凄んだが結局、レッドラインは自分ではなく国際社会が敷いたと、問題を国際社会に丸投げした。ゲーツ氏は回顧録で嘆いた。

 《オバマ氏は自らに仕える司令官に信頼を置かず、自らのアフガン戦略に自信が持てない。この戦争を人ごとの如く捉え、端から撤退したいと考えた。戦場離脱がすべてだった》

 「世界の警察官」役を批判する英紙ガーディアンすら「世界の傍観者」を決め込むオバマ氏を批判しており、鳩山氏との格の差を改めて確認した。

 ただ、鳩山氏が国益に与える損害は「ベランダのハト害」と笑い飛ばせる規模でもなく「政治的禁治産者」指定を求める声がある。

 かくも個性的な“レガシー=政治的遺産”をオバマ氏は獲得できまい。(政治部専門委員 野口裕之/SANKEI EXPRESS

ランキング